「秋田さん!」

俺は彼女のそばへと走った。
自分が一緒にいるのに、芹香をこんな目に遭わせたことがひどく腹立たしい。
守りきれなかった自分が、情けなく思えた。

「なんだよ、お前は!」

芹香を叩いた男は、謝るどころか、開き直るような態度で彼女に詰め寄る。

「邪魔だ、どけよ!」

男が芹香を押しのけようと、手を伸ばした。

「やめろ!」

俺は叫ぶように言った。すると、ビクッとした男の手がすっと引く。
芹香は、女性をかばうように身体を盾にしながら男を見上げたままでいた。

「いかなる理由があっても、女性に手を上げてはいけません。それは、なんの解決にもならないわ。あなたがしていることは間違っています」

芹香のそばにたどり着いた俺の真横で、彼女は男に毅然と言い放つ。


俺はその瞬間、心に強い衝撃を受けた。こんな風に、誰かのために真っ直ぐになれる子がいるんだ。
小さな身体で身を呈して、必死になれるだなんて。

その強さは、どこから湧き出るのか。
俺の隣で怯むこともなく男を見上げる彼女を、驚きながらただ、見つめた。