君ならきっと、分かってくれると思い上がっていた。
あのときの俺に、他になす術などなかったことを。
「主任、トレーラーの庸車をワイドエクスプレスに依頼しました」
「え。あ、ああ。…ありがとう」
ふと彼女を見る。
無表情でパソコンを見つめるその顔は、確かにあの頃の芹香と変わらない。
君が誰かのものになっているなどとは考えてもいなかった。
知っていたならば、ここまで君を追いかけてなど来なかったのに。
切なさと嫉妬で心を痛めることもなかった。
ねえ、芹香。
もう、俺に笑うことはないのか?
俺は再び思い上がって、ひとりでから回るのか。
「星野主任。内線十一番、お電話です」
背後から言われ、軽く小さなため息を吐くと、彼女から目を離し、俺は受話器を手にした。
「はい。企画課の星野です」
君の笑顔を曇らせた過去のある俺などにもう、芹香は振り向いてくれるはずなどない。
冷静になって、少し考えたならば、初めから分かることだったのに。