「…あのっ。…私、好きなんです」

熱に浮かされたように、無意識だった。
まるで自分が、他の誰かにでもなったような感覚だった。
普段の私ならば、こんなに大胆な行動はあり得ない。


「えっ?掃除が?」

勢い任せに思わず言った直後に、再び顔を上げた彼と目が合い瞬時に我に返った。

「いやっ、あの!違います!掃除が好きと言うことではなくて。いやだ、私。急に何を言って…」

「じゃあ………なにが」

聞き返されてパニックになる。

「いっ……今の話はなかったことに」

「まさか、好きっていうのは俺のこと?」


真っ赤になって否定する私を見つめたまま、彼はゆっくりと立ち上がった。
今度は見下ろされて、再び見つめ合う。

なんと言えばよいか、分からない。

半年前に入店したとき、初めて彼を見た瞬間に好きになった。
こんなに綺麗な男性に会ったのは初めてだった。
ショーウィンドウに飾られているマネキンが、そのまま人間になったようだと思った。

そんな彼を、見つめるだけで精一杯だったのに。
このまま玉砕して終わりたくなんかなかったのに。