五年前。
私は大学生で、拓哉とはバイト先で知り合った。
その日は台風で、客足が途切れ途切れだった。
「今日はあまりお客さんが来ないね」
カウンターを一心不乱に掃除していた私は、突然の彼の言葉に驚き並んでいたカップを落としてしまった。
「きゃ…っ」
パリーン。
軽快な音を立てて、足元に落ちたカップが粉々になる。
「うわっ。ごめん。驚かせてしまったね」
星野さんはさっと屈み込むと、それを片付けようと手を伸ばした。
「あ…っ。触らないでください。箒を…持って来ますから」
そのとき、私を見上げた彼の顔を上から見下ろしながら、不思議な独占欲が突然現れた。
この人を、私だけのものにしたい。
触れて、感じて、独占したい。
私だけが……。