黙り込んだ私に、佐伯さんは優しく触れるだけのキスをする。

彼を見つめると、優しい目で私を見つめ返しそっと抱き寄せてくれる。

私はその温かな胸に顔を埋めゆっくりと目を閉じた。
彼と付き合い始めて、はや四ヶ月が経過している。
正直、もう大丈夫だろうと自分では思っていた。
社会人になってからの二年の間で、佐伯さんは三人目の恋人になる。その中でこんなに続いた恋愛は今回が初めてだ。
人を好きになって、普通に恋愛することがこんなに難しいだなんて、学生時代は思ったことなどなかった。
最近の恋はいつも、ひと月も経たずに終わってしまっていた。どうしてもなにかが違うと思ってしまう。
だが今、優しく包み込んでくれる大人の男性である佐伯さんは会社の上司。元々は私の教育係だった。

『実は秋田さんのこと、ずっとかわいいと思ってたんだ。もしも今、フリーならば俺と付き合ってもらえないかな』

二人きりで残業していたときの意外な告白。
いつもは厳しい佐伯課長の、照れた顔が印象的だった。

『わ、私でよろしければ』

思わず答えていた。断る理由なんてどこにもなかった。
仕事ができて、部下からの信頼も厚い佐伯課長にそもそも憧れていた私は、夢見心地でその嬉しそうに笑う顔を見つめていた。
この人ならば本気で好きになれる。純粋にそう思えた。