ふたりで彼女を見る。
その目には、もはや涙が溢れ出ていた。
「分かってる。……分かってたの。拓哉は芹香さんを想ってること。私を好きなんかじゃないって。だけど……いつか、結婚したら振り向いてもらえるんじゃないかと……そう思いたかった」
流れる涙を袖口で拭う彼女に、拓哉が向き合う。
「……そう。俺は、結婚したら君を裏切るつもりなんてなかったよ。君だけのことを考えて、芹香を忘れる努力をするつもりでいた。そうなれば、芹香とはふたりきりで会うことは、二度となかっただろう」
そんな彼を、彼女は濡れた目で見上げた。
「だけど君の言う通り、理由がなくなったなら、もう我慢なんてできない。ずっと芹香を好きだった。離れていたときも、忘れたりなんかできなかったんだ。そんな俺と結婚しても、君は幸せにはなれないんじゃないかと、ずっと疑問に思ってきた」
泣きながら、理恵子さんは無理やり笑った。
「ひどい人だわ。正直すぎて……なにも言えなくなる。由衣さんの言う通り、彼女だけが幸せになるなんて、不公平よね。拓哉も好きな人と、幸せになる権利があるわ」
それだけ言って拓哉に部屋の鍵を渡すと、彼女は私たちに背を向けた。
そのまま歩き出す。
「理恵子」
拓哉が呼ぶと、彼女は足を止めた。
「君にも同じことが言えるよ。君も幸せになるべきだ。君を本当に好きな人とね」
「分かってるわよ。言われなくてもそうするつもりよ」
振り返らずに言うと、そのまま再び歩き出した。