「待って!それ以上言わないで!」

拓哉の後ろから声がする。
ふたりで振り返ると、立ち去ったはずの理恵子さんが立っていた。

「会社が……大変なの。あなたの思い通りには、できやしないわ。これ以上、なにも言わないで。仕事の話じゃないなら、このまま帰って」

彼女は今にも泣き出しそうな顔で言う。

「あの……多分、会社は大丈夫です。由衣さんと黒田社長に会ってきたんです。黒田社長の息子さんも一緒に」

躊躇いながら言うと、ふたりは驚いた顔をした。

「由衣と?どういうこと?」

拓哉が尋ねる。

「黒田社長に、由衣さんは黒田慶太さんとの交際を認めてもらったようです。よく分からなかったけど、株の買収?も……やめてもらえるみたいで」

ふたりは目を見開いて私を見つめる。

「……やっぱり、由衣は黒田さんと付き合ってたのか。話してくれたら協力したのに。由衣は気を遣って俺には言わなかったから。もうバレてるのに、自分ばかりで申し訳ないとか言ってさ。我が姉ながら、強情なんだよ」

拓哉がふわっと笑った瞬間。理恵子さんが大きな声で言った。

「だって!私には他に理由がないの!拓哉をつなぎ止める理由が!会社が無事だと、困るのよ!!」