彼女が立ち去り、拓哉とふたりになる。
彼の目線や悲しげな表情から微かな苦悩を感じ、私は再び勇気を振り絞った。
「拓哉が……理恵子さんとの結婚を決めたのは、会社のためだと聞いたの。もしも、責任感からだけのものならば、私は自分の気持ちを話したいと思ったの」
「芹香の……気持ち?」
拓哉が私の手首を掴む力が緩む。
だけど私はもう、逃げたりはしない。
「カフェで出会って、すぐにあなたを好きになったわ。生まれて初めての感情だった。あなたを二度と、離したりはしないと思ってた。だけどそんな誓いは、あっさりと破られた。あなたを信じきれなかったから」
黙って私を見つめる目は、動揺の色に染められていく。これから私がなにを言い出すのかを、まるで恐れているかのように。
「私があなたから逃げ出したのは、怖かったから。自信がなかったの。あなたを失う瞬間を、味わいたくはなかった。本気で愛していたから」