近づいてくるにつれて、はっきりと見えてくる。
間違いなく、拓哉と理恵子さんだ。
彼女は、拓哉に腕を絡めて、嬉しそうに彼を見上げている。
そんな彼女を、優しい眼差しで見下ろす拓哉。
慶太さんと由衣さんから聞いた話が、まるで間違っているかのように仲睦まじく歩くふたりを見て私は、これから拓哉に告げようとしている自分の気持ちは、やはり告げるべきではないのではないかと迷った。
結婚を控えたふたりは、このまま何事もなければ幸せに暮らしていけるだろう。
咄嗟にそう考え、ふたりから目を逸らし、反対に向かって歩き出した。
幸いにも、どうやらふたりは私がいることには気づいてはいない。
このままここを立ち去り、二度とふたりの邪魔をするようなことはしないでおこう。
そう思った瞬間。
「芹香?」
背後から拓哉の声がした。
一瞬足を止めそうになったが、聞こえないふりをして歩き続ける。
「芹香。待って」
再び私を呼ぶ声は、若干焦っているように聞こえた。