手を上げタクシーを停めて、彼のマンションがある街を告げる。
拓哉は、部屋にはまだ帰ってはいないかもしれない。
今頃、理恵子さんと幸せなデートをしている最中かも。
だけど、それをじっと待っていることなんてできない。
今すぐに、もう一度大きな声であなたに伝えたい。
はやる気持ちを抑えきれずに、私は車に揺られていた。
由衣さんと慶太さんの、お互いを想い合う姿に胸が震えた。自分の弱さが恥ずかしくなった。
信じ抜くこと。きっとそれが、私には足りなかった。
彼のマンションに着き、部屋番号を押してチャイムを鳴らすが、予想通り彼からの応答はなかった。
このままここで待てばいいのか、一旦離れたほうがいいのかを考えながら、出口に向かう。
ふと顔を上げると、少し離れた場所から人影が見えた。こちらに向かって歩いてくる、ふたつの影。
まさかと思いながら目を凝らす。
「でもね、お父さんの言うことも分かるのよ」
「嘘ばっかりだな。全然、言う通りにはしないくせにさ」
楽しげに話しながら、ふたりは笑い合う。
私は足を止めて、彼らを見つめた。