「さて。これはこれはお揃いで。今日はどういった話かね」
応接室で待っていると、しばらくしてから黒田社長がにこやかな表情でやってきた。後ろには、先ほどの秘書が控え目に立っている。
「父さん。今日はあなたの間違いをただしにきた」
黒田社長は、息子である慶太さんを睨みつけた。
「間違い?心当たりがないな」
わざとらしくとぼける父親に、慶太さんは険しい表情で話す。
「買収をやめてほしい。北陵エクスプレスは、父さんのものにはならない」
「バカなことを言うな。お前は後継者だろう。会社を大きくするのは、お前のためでもあるんだぞ」
それを聞いて、慶太さんは鼻でフッと笑った。
「俺はここを継がないよ。米永倉庫は父さんの会社だ。俺は米永倉庫を退社する。ここにいる由衣と結婚して、北陵エクスプレスに入る」
「なっ!なにを言っている。勝手なことを言うな。ここにいたなら社長になれるじゃないか。向こうにはすでに後継者がいるんだぞ。しかも星野の娘と結婚なんて、正気か!?」
黒田社長は真っ赤になって、慶太さんに詰め寄るように近づいた。
「社長の座なんて、欲しくはないね。愛する人以上のものなんてない。ちなみに、北陵エクスプレスの株主は父さんに味方はしないよ。俺があとを追って説得したから。父さんの卑怯な手口をね」