優しげな雰囲気を持つふたりは、幸せで思い合っているのが分かる。このふたりもおそらく、会社のことで悩んだり、別れの危機にさらされてきたのかもしれない。
だけど乗り越えて、こうして一緒にいるんだ。
そう思うと、私にも勇気が湧いてくる。

「理恵子ちゃんが拓哉を好きなのは、おそらく本当よ。だけど、こんな形で結婚しても、彼女も不幸になると思うの。拓哉が好きなのはあなただから」

私はふたりを交互に見ながら、本心を話そうと決意した。
いくら時間が経っても、この気持ちは消えない。そんなことは分かっていたけど、どうしようもなかった。

拓哉が好きで、何年も記憶から消えることがなかったのは実証済みなのだ。

狂おしいほどに、求めてやまないあなたへの想いを抑えることに必死になる。そんな日々は、私の心をどんどん蝕んでいった。

「私は……おふたりがおっしゃる通り、拓哉を忘れたりはできません。だけど、会社のためだと思うと、どうしようもなかった。ずっと……好きで、苦しいんです」

気を抜くと、今にも涙がこぼれ落ちそうだ。
そんな私を見て、ふたりは目を見合わせてクスッと笑い合う。

そして私に視線を戻すと、由衣さんは言った。

「拓哉も同じよ。あの日……。初めて婚約者のふりをするように家族で頼んだ日に、拓哉が私に言ったの。『大切な人がいるから、一日だけだ。俺には芹香しかいないから』ってね。きっと今もそうよ」