もし彼が、本気で私を求めているのなら。
わざと冷たい態度を見せてきたのなら。
合併披露会のあとで言い放った言葉自体が、嘘だとしたら。
「まさか、本当に……?」
私が呟くと、黒田さんは頷いた。
「父が、秘書の植田と一緒に、彼を追い詰める方法を考えてる。君をマスコミに晒そうとしていたんだ。彼らの結婚を阻止するのが目的でね。花木さんから拓哉くんを略奪した女性だというシナリオで、君を狙ってる」
私は口を両手で覆った。
「拓哉くんは父から君を守るつもりでいる。だから結婚しようとしてる。父のしていることは最低だよ。北陵エクスプレスの株を買収してるからね。それに、食い止めないと、俺と由衣も星野社長に交際を認められない」
「ごめん、遅れたわ。秋田さん、来てくれたのね。よかった」
そのとき突然現れた女性を、驚いたまま見上げた。
「慶太から話を聞いた?初めまして、私は星野由衣。拓哉の姉よ。北陵エクスプレスで、父である社長の秘書をしてるの。私に用事で社に来た慶太に、あなたが出会ってよかったわ」
サラッと長い髪が印象的な、綺麗な女性。雰囲気が、拓哉によく似ている。
「拓哉の気持ちを話してくれた?」
彼女が黒田さんに尋ねる。
「ああ。君の思いもね。俺が言えた立場じゃないけど、どうか諦めないでほしいよ。俺も由衣と同じ気持ちだ」
「拓哉の……お姉さん……」
彼女は黒田さんの隣に座ると、初めて私をじっくりと見た黒田さんと同じように、私を凝視した。
「可愛い人ね。拓哉に似合ってるわ。イメージ通りよ」