「父がしていることを、君は知ってるの?拓哉くんはそのせいで、自分を犠牲にしようとしてる。君たちは、決断を下す前にきちんと話し合ったのかい?」
突然の話の流れに、私は再び席に座った。
私は彼の話を聞く義務と権利がある。そう思えた。
「由衣は、弟の運命を悲しんでる。彼らは仲のいい姉弟でね。拓哉くんばかりが苦しむ姿を、見てはいられないそうだ」
「たとえどんな事情から始まった話でも、拓哉は納得して受け入れているはずです。理恵子さんを好きだから」
話しながら悲しくなってくる。
私が入る隙間など、初めからなかった。拓哉は罪悪感から、私に償いをしていたのだから。
「本当にそう思っているのなら、彼は気の毒だな。君は彼のなにを見てきたの」
問われて、改めて考える。
彼は、佐伯さんに挑発されて、自分には関係ないと言った。別れを決めた私を、引き止めなかった。想いを告げても、謝って受け止めなかった。
だけどその目は、いつだって悲しげに潤んでいた。
『愛してる』と言いながら、涙を流した。
私はハッとなり、黒田さんを見た。