「さてと。なにから話そうかな」
笑顔を崩さないまま、席に着いた途端に彼が言う。
くりっと大きな目が、興味深そうに私を凝視する。
その目力に躊躇い、私は俯いた。
ナンパにしては私のことを知りすぎている。彼の正体が知りたくてこうして会っているが、誰なのかは未だに想像すらつかない。
「まず名前だよね。俺は、黒田慶太」
「黒田……さん」
先日の、拓哉のマンションでの場面が頭に浮かんだ。
「黒田……社長さんの……?」
思わず尋ねると彼はクスッと笑い、「正解。勘がいいね」と答えた。
先日見た、黒田社長とはあまりにも似てはいない。
失礼だが息子さんにしては、目の前の彼はあまりに端正でにこやかだ。
「あ、俺は母親似なんだ。あまり父には似ていない。顔も性格もね」
なんと言えばよいか分からず黙ると、彼は笑い出した。
「あはははっ。正直だね、芹香ちゃん。考えていることが透けて見えてる」
「なっ、なにも考えてなんていません。用件を伺ってもいいですか」
拓哉への気持ちまでを読み取られているようで、気分がいいものではない。早く話を聞いて、立ち去りたいと思った。