式場のパンフレットを、足元に置いてあった大きな袋にガサガサとしまいながら、彼女は立ち上がった。
「じゃあ、もう決まったからいいわよね?拓哉とふたりで話したいの。拓哉、今日はこのまま出られる?」
問われて腕時計を見る。
終業まで、まだ一時間ほどある。
「まだ仕事が……」
俺が言うと、父が笑いながら口を挟んだ。
「仕事よりも、婚約者殿のご機嫌を取るほうを優先すべきだな。会社の存続は、なによりも大切だよ。仕事は明日にして、このまま食事にでも行きなさい」
ため息をつきながら父を見る。目は笑っているが、冗談を言っている顔ではない。
「分かったよ。じゃあ日報だけ締めてくるから。先に俺の車で待ってて」
理恵子に車の鍵を渡すと、彼女は嬉しそうな表情で頷いた。