そこまで考えて、急に胸が締めつけられるように苦しくなった。
ギュッと目を閉じて、そんな空想を消そうとする。

「拓哉?どうしたの。気分でも悪い?」

目を開けると、心配そうに俺を見る理恵子の顔があった。

「いや。なんでもない」

ふと目を逸らす瞬間に見えた理恵子の目は、驚くほどに冷静で無表情なものだった。
きっと気づいているはずだ。分からないはずがない。
どんなに平静を装っても、芹香への想いが身体中から溢れては落ちていくのだから。

「結婚は早いほうがいいな。すぐにでも準備に入らないと。黒田の動きを早急に止める必要がある」

父の言葉に、花木副社長も頷く。

「それよりも、理恵子が待ちきれないんだよ。拓哉くんの元へ、早く行きたいだろう」

花木副社長がからかうように理恵子に言うと、彼女はニコニコしながら答えた。

「当たり前じゃない。拓哉がずっと好きだったんだから。早くしないと、誰かに取られてしまうわ」

彼女の言葉にドキッとする。
牽制されたのだろう。今さら芹香に戻ることなど、できはしないのだと。