「そうか。理恵子さんと一緒になるんだね?」

「うん。もちろん、初めからそのつもりだよ」

吐き気を忘れるように、ニッコリと笑う。

俺はいつから、こんなに大人になったのだろう。
数年前ならば、逃げ出してでも父の言いなりになどならなかったはずだ。

俺の決断が、芹香だけではなく、理恵子までもを不幸にするというのに。

知らず知らずのうちに、必死で守っているのは、後継者の座か?そんなに会社が欲しいのか。
いや、そんなことではない。
芹香を黒田社長から守るため?

自分に問いかけるが、複雑に絡み合った感情の奥にある本心は、おそらく壊れ始めている。

今ここで、笑顔を崩さずにいられるほどに。

芹香の手が、俺の手をすり抜けて離れた瞬間に、きっとなにかが音を立てて割れたのだ。