私は、この場にいるべきじゃないと悟り、「すみません」とだけ言って、先を急いだ。

結婚式場。もうそこまで話が進んでる。
それもそうだと思いつつも、悲しみがこみ上げてくる。

入口の自動ドアをすり抜け、エレベーターへと向かう。
私はふたりを祝福できるだろうか。
彼の幸せを願いながらも、本当は私が幸せにしたかったと悔いている。
強がることが上手くなっても、現実を見せつけられると、途端に心の奥から悲しみがこみ上げてくる。

「ダメ……泣いちゃ」

小さく呟きながら、エレベーターの到着を待つ。

__ポーン。
ドアが開き、確認もせずに中へと飛び込んだ。今の私を、誰にも見られたくはない。

「わっ」

誰かとぶつかり、その人物が驚いた声を上げた。

「すみませんっ」

咄嗟に顔を上げると、優しそうな顔で私を見下ろす男性がいた。

「いや、いいよ。……あれ。君……」

彼はそう言って、降りようとする足を止めた。それと同時に、エレベーターのドアが再び閉まる。

「……泣いてるの?」

「えっ」

見ず知らずの人に、突然言われたことに動揺を隠せない。さっと目を逸らし、一気に告げる。

「泣いてません。もしもそうでも、あなたに言われることではありませんから。どうぞ、お気になさらず降りて下さい。本当にすみませんでした」

泣きたい気持ちなのは確かだ。だけどまだ、泣いてはいない。
簡単に泣くのは、もうやめたいと思っての反発からか、口調が強くなってしまう。
この人に当たっても、なにも変わらないのに。