「お願いよ、拓哉。彼女をもう、解放してあげて。もし世間に知れたら、悪いのは彼女になってしまうのよ。婚約者のいる人を奪おうとしているだとか、面白おかしく騒ぎ立てるに決まってるわ」
……解放。
俺の存在は、芹香にとってそんなふうになるのか。
離れたほうが、お互いに幸せになれるのか。
分からない。
なにももう……考えたくない。
「分かったよ。……彼女とはもう、仕事以外の会話はしない。君と……結婚するよ。それしかもう、道はないみたいだからね」
自分たちの会社と、最愛の人。
俺の決断が、大切なものすべてを守れるのなら。
君を手放すことを選ぶしか、俺にできることがないならば。
俺が進むべき道は決まっている。
急にそう思えてきた。
「理恵子はそれでいいのか?俺はきっと、芹香を簡単には忘れないよ」
「……いいわ。いつかきっと、私を好きになってくれると信じてるから」
嬉しそうに笑う理恵子を見て、果たしてそんな日がくるものかと思ったが、なにも言わずに、俺も彼女に笑い返した。