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「理恵子。……分かったから、手を離してくれ」

黒田社長と芹香が去り、静けさに包まれた中で理恵子に言う。

「分かったわ。……追わないでよ?」

「ああ。まずは、君の話を聞くよ」

胸が痛いほどに鳴っているが、なんとか堪える。
俺はこれからどうするべきなのか、なにも見えないままに、マンションのエントラスにあるソファに座った。

「黒田社長は、今も私たちの婚約を信じてはいないわ。興信所かなにかに頼んだみたいで、証拠を掴んだと言って、お父さんたちをずっと脅迫してるの」

彼女の話は、始まりからすでに衝撃的だった。

「株主総会でそれを発表して、お父さんたちを経営から外していくつもりらしいわ。すでに、彼に賛同している人たちもいるらしく、危機的な状況になってる」

「今さらそんなことはできないだろ」

俺は驚きつつも、冷静に考えて言った。

「私もそう思ったけど、彼は諦めなかったの。あのとき、私たちの婚約で会社は吸収されずに済んだ。それだけで終わるはずの話が、彼の執拗な考え方から、ずっと続いていたのよ。黒田社長は、取り返すタイミングを窺っていたのね」