佐伯さんの言葉に涙があふれた。

初めから分かっていたけど、我慢のきかなかった自分を本当にバカだと思った。

誰を裏切ってもいいと、欲望を優先した。
そんなはずはないのに。

「佐伯さん……。もういいです。私が悪かっ……」

言葉にならない。
拓哉が、必死で話そうとする私を、憐れむような目で見ている。

「理恵子さんと……幸せに……なっ……」

これ以上は無理だ。
なにを言っても、彼の負担になるだけ。

私に対する罪悪感を強くするだけなのだ。

「そうか。じゃあ遠慮なく、彼女とやり直すよ。悪いが、しばらく話してから戻るから、君も業務に戻ってくれ。泣いたままで部署に戻せないからね」

佐伯さんが私の肩をグッと抱いて歩き出す。
拓哉に背を向けた瞬間、涙が驚くほどに流れてきた。

「思いきり泣いて。話くらいは聞くから」

再び耳元で囁かれ、小さく頷いた。
拓哉を振り返る余裕はない。

自分の感情に、心をつぶされそうになっていた。

今すぐにすべてを忘れたい。
拓哉となんて、出会わなければよかった。

そんなふうに思いたくなんてなかったのに。
初めて、純粋に愛し合った日々さえなくなればいいと、強く感じていた。