「お疲れさま。悪いな、俺が彼女を呼び止めたんだよ。実は……まだ、彼女に対する気持ちを捨てきれなくてね」
私は驚いて佐伯さんを見上げた。
ニコニコと朗らかに笑う顔は、私が癒されてきた笑顔となんら変わらない。
「……そうですか。だけど俺にそんな話をされても、決めるのは秋田ですから」
今度は拓哉を見た。
冷めた表情で佐伯さんを見るその目は、感情がまったく入ってはいないように見える。
先日の、愛情を滴らせるような甘い視線の彼とは別人だ。
「へぇ。……じゃあ君は、俺と芹香ちゃんがどうなろうと、関係ないと?」
佐伯さんの顔からも、笑みが消えた。
「俺は……なにも言えないですから。あなたが言うように、関係ないんで」
拓哉は、絞るような声でそう言うと俯いた。
私はそんな彼を見ながら、甘い夢はもう見ることができないのだと悟った。足が震えてくるのを、力を込めて止める。
「ひどい男だな、君は。遊びならば、初めからそう告げるべきだよ。芹香ちゃんは、それを受け入れる女じゃない」