廊下を歩きながら考える。

初めからなにもなかったのだと思えばいい。
拓哉と再会したとき、そうするべきだと考え彼を避けた。
佐伯さんを好きになろうと、必死になった。

今までもそうしてきたのだから、きっとできるはずだ。
佐伯さんは、私と寄り添う相手ではなかったけど、拓哉だってきっとそう。
どんなに好きになっても、何度再会しても、結ばれない。

「芹香ちゃん」

前方から歩いてきた佐伯さんが、優しく微笑みながら片手を上げている。

「佐伯課長」

私は足を止めて彼を見た。

「この前はみっともないところを見せたね。あれから君は?運行には行かなくてもよかったんだね。星野くんとなにか進展はあったのか?」

私はふるふると首を振った。

「進展なんて。主任は、昔馴染みの懐かしさから私に声をかけただけですよ」