エレベーターが一階に到着し、扉が開く。
車の中で交わした罪なキスを、当分は忘れないだろう。いけないことだなんて、考える余裕すらなかった。
幸せを感じて胸が震えた。

だがそれももうおしまい。今日から私は、拓哉への想いを一日も早く封印し、彼の幸せを願う。
もう、この気持ちに終止符を打たなければと、心に決めた。

何年も彼を想い、自分を見失ってきた。
そんな自分と決別しよう。
ようやくそう思える気がしていた。


前を向いて、歩き出す。

「芹香!」

そのとき、非常階段の扉がバンッと開き、息を切らせた拓哉の姿を見て私は目を見開いた。

「ずっと忘れたことなんかない。君だけだ。俺の中には、君しか__」

駆け寄ってきた拓哉が、私を抱きしめる。

「放して。もう、忘れたいの。同じ場所を行ったり来たりするのは、もうやめたいのよ」

彼の身体から伝わる熱に、今にも溶かされそうになりながらも、必死で伝える。

私たちは終わったの。
あなたも私も、前を向いて歩かなければいけない。