エレベーターに向かって走る私を、拓哉が追いかけてくる。

やっぱりどうしても、私たちは結ばれないんだ。
何度出会っても、きっと離れる運命なんだ。

理恵子さんに見つからないように、結婚するまで一緒にいようと一瞬思ったのも確かだけど、うちの会社の後継者だなんてわかったら、そんな思いは途端に怯んだ。

「芹香!待って」

どうしてもあなたが好きだから。
ひとつ叶えれば、もっと欲しくなる。
そんな当たり前のことに、今さら気づいたの。

わずかな時間を一緒に過ごすくらいじゃ、私の心は満たされないことを。

エレベーターに飛び乗り、振り返らずに下に降りていく。

最後に好きだと言ってくれて、嬉しかった。
愛おしそうに見つめながら髪を撫でてくれた。

それ以上は望めないことを、気づかせてくれた。

あなたが本当に好きだった。

涙がこぼれないように、上を見る。

今は無理に忘れる必要なんてない。
心に拓哉の笑顔を抱いていても、それは罪にはならないから。あなたを忘れてしまうまでは、せめて私の心の中で笑っていて。

そう思うと、少しだけ前向きになれそうな気がした。