「座ってて。今淹れるから」

ソファに座り辺りを見回す。
パソコンにオーディオ機器。男性向けのファッション雑誌がテーブルに置かれている。
殺風景でシンプルな部屋。
……無意識に、女性の気配を読み取ろうとしている自分がいることに気づき、私はうつむいた。


「はい。どうぞ」

差し出されたカップから、湯気とともに香ばしい香りがする。

「なつかしいわ。ありがとう」

「味は変わらないよ。飲んでみて」

湯気の向こう側の笑顔も、あの頃と同じ。
いったいなにが、違ってしまったのかわからなくなるほどだ。

「芹香。やり直せないか、俺たち。もう、手放して後悔するのは嫌なんだ」

「私もそうよ。だけど……」

理恵子さんの顔が浮かぶ。