……ずっと思っていた。
あなたが今も、私のそばにいたなら。
隣を見上げるといつもあった優しい笑顔を、ずっと見つめていられたらと。
逃げ出すことで、精一杯だった。あなたの口から別れの言葉を聞く勇気なんてなかった。
どれだけ手を伸ばしても、届かない場所に消えてしまった愛しい温もり。
当たり前のように包まれてきたあなたの愛を、失くしてしまったことに、ただ愕然としていた。


「拓……。う……っ」

そんな彼の熱い唇が今、私を強く求めている。
夢の中を彷徨うような感覚で、それを夢中で受け止めている自分。
信じられないけれど、これが現実なんだと実感する。

そっと唇を離し、ただ見つめ合う。
溢れる涙に邪魔されないように、目を大きく見開いて彼を見つめた。

……瞳の輝きはあの頃のまま。なにも変わらない。
ただ、あの頃と違うのは。
あなたはもう、私のものではないということだけ。

「理恵子とは……婚約なんてしてないよ。俺には芹香だけ。今も変わらない。……信じるか?」

「……ええ。わかってる」

あなたの言葉が、私のための優しい嘘だということは。