あれから、四年の月日が経った。
あれ以来、芹香のことがいつも心にあった。
なにも言わずに消えた彼女を、必死で探すこともできたが、しなかった。
別れの言葉を直接聞くことが怖かった。
拒絶されたらたまらないと自分に言い訳をしながら、逃げてばかりいた。
「え。……秋田……芹香?」
父の会社に入社し、後継者となるために色々な部署を回っていたある日。
地方の支社に、新規プロジェクトの案件が持ち上がり、支社の社員名簿をなにげなく見ていた俺の目に、飛び込んできた名前。
同姓同名かも知れない。
そうも思ったが、いても立ってもいられなかった。
「父さん。このプロジェクトに参加させてほしい」
次の瞬間には、父に頼んでいた。
「え。……お前は来月から昇格する。この先、経営に近づけていく予定だが。地方に飛ぶと遅れるぞ」
怪訝な顔で言う父を真剣な目で見返す。
「どうしても行きたいんだ。頼むよ」
俺の言い方に、父は小さなため息をついた。
「分かった。じゃあプロジェクトを任せたぞ。成功させて、すぐに戻ってくるといい」
大きく頷きながら思う。
もしも許されるのならば、どうか俺の話を聞いてほしい。
あの日、君を傷つけたことを、謝らせてほしい。
支社への出勤初日に、ビルを見上げながら、遠い日の君に向かって心の奥で呟いたあと、俺はビルの入口に向かって歩きだした。