「いやー、うまくやってくれて良かった。このまま本当に結婚してくれたらいいな」
その後に行われた花木家との食事会は、和やかな雰囲気で始まった。
「理恵子さん、拓哉はどうですか。本気で考えてみませんか」
「父さん。勝手なことを言うなよ」
父が、酌をしにきた理恵子に、楽しそうに話しかける。
「……駄目なんです。拓哉さんには、高校を卒業したときに振られているんです。それまでお付き合いしてたんですけど」
「え。そうなのか?本当に?」
「理恵子。余計なことは言わなくていいから」
父は、彼女の言葉を遮ろうとした俺を見た。
「いや、ほんと昔のことだから。今は関係ないからさ」
「そうか……。君たちには以前にそんなことが」
なにかを考えている父を無視して、俺は酒をぐっと飲んだ。
会社のための芝居は、もう終わりだ。
俺には芹香がいる。
帰ったら彼女を抱きしめて、食事を作ってあげてから、この胸に抱いて眠る。息もできなくらいに、キスをして、愛を伝える。
そんな当たり前の毎日が、この先もずっと続いていく。
「拓哉。本当にこのまま結婚してくれると有難いんだが。付き合っていたならば、不可能ではないだろう。考えてみないか」
父の言葉に、俺はガタッと立ち上がった。
「しつこいよ、父さん。俺はもう帰るから。花木社長。もう、今日は失礼します」
それだけ言うと、勢いよく宴の部屋を出た。