芹香が走り去るのを横目で見ながら、会場を後にしようと歩きだす。そんな俺の後ろを、理恵子が付いてきた。
「なにもあそこまで言わなくても。……彼女なんじゃないの。大丈夫なの?」
「盗聴器がないとも限らないだろ。黒田社長ならばやりかねないよ」
ヒソヒソと話す俺たちのそばで、秘書の男が隠れている。そのドアを睨みながら、会場を出た。
「私たちが、そこで隠れていることに気付いてないとでも思ってるのかしら」
理恵子も怪訝そうに、ドアを振り返った。
「お父さんたちを騙して、両社の株を買い占めようとするだなんて。同級生同士、今まで、相乗効果でやってきていたのに。どうして親友を裏切れるのかしら」
「今日のことで、株主は考え直すだろう。会社の合併は間違いないのだと、疑う余地もない。大丈夫だよ」
「そうね。完璧にやり遂げたもの」
理恵子と話しながら、芹香の顔を思い浮かべる。
明日にでも、言い訳をしに行こう。
きっと、怒りながらも許してくれる。事情を話せば、分かるはずだ。
芹香だって、雑誌記者に追いかけられたりしたくはないだろう。
彼女を世間の好奇な目に、晒したりはしたくない。
このとき俺は、芹香を守りきれたのだと、信じて疑わなかった。