「拓哉……。たく……。……拓哉っ……」

息苦しそうな、か細い声が、俺の耳をくすぐる。

「もっと……俺を呼んで。……もっと。芹香……」

「私……あ……」

「せり……俺……」

吐息の合間に、お互いになにかを伝えようとしては、言葉が途切れる。言いたいこと、伝えたいことは、たくさんあるが、唇を離せない。そのまま、首筋にキスを這わせる。

あのときは、会社を存続させるために、仕方がなかった。あれ以来、驚愕した君の顔を思い出すたびに、やるせない気持ちになった。
そんな思いやわだかまりを、熱で溶かすように、俺は芹香の肌に顔を埋めていった。



***


「君とはもう会わない。悪いけど……このまま帰ってくれないか」

そういったあとに、やりきれなくて、芹香から目を逸らした。そんな俺を、開いたドアの陰から見つめる、鋭い視線。
米永倉庫の黒田社長の秘書の男と、一人のカメラマン。そのレンズは、芹香に向けられていた。
スキャンダルで、騒動を起こそうとする魂胆が伝わってくる。
早く芹香を、この場から離さないと。シャッターを切られたらと、気が気ではない。そんな俺の様子を、理恵子は不安そうに、黙って俺の隣で見つめている。

「早く行ってくれ。君はここにいちゃいけない。どうして来たんだ。……行けったら!」

動き出さない芹香に向かって、思わず大きな声が出てしまう。

一瞬だけ見た、彼女の目には涙が溢れていた。

……まずい。まさか、本気だとは思っていないよな?
少し危惧したが、後で話せば大丈夫だろうと思い直す。