固く結ばれていた芹香の唇が、次第に緩んでいくのが分かる。しっとりと俺に絡みつく、その小さな唇をこじ開け、奥へと入り込んでいく。

「あ……ん……」

芹香がこぼした、小さな吐息さえも、逃がさない。他の誰かの痕跡なんか、消えてなくなればいい。
夢中で唇を貪る俺の髪を、芹香がそっと撫でる。

「芹……香……っ」

ようやく触れることのできた、芹香の温もり。ずっと、こうしたかった。心の奥で、ずっと君を想っていた。

「たく……」

二人の熱い吐息だけが、車中に響く。
唇を重ねたまま、そっと目を開けて芹香を見る。閉じられた目から、とめどなく溢れる涙を見ていると、俺の目頭も熱くなってくる。

君を守りきれなかったことを、許してもらおうとは思っていない。ただ、こうしてそばにいて、俺を見つめてくれたなら。
他にはなにも、望まないから。
もう、何処へも行かないで。

強く心に思いながら、彼女を強く、抱きしめなおした。