彼女の目から溢れる涙を、そっと指で拭う。心に傷を負ってから、何度、こうして君は泣いたのだろう。
「俺と別れてから……こうして、君に触れたやつがいるだなんて」
「え……?」
この肌も、髪も、唇も。芹香の持つ全ては、俺のものだったのに。たとえ嘘でも、ひどい言葉で君を傷つけて、結果その全てを失った俺に嫉妬する権利なんてない。
分かっているけれど。
「あの日のことは……全て誤解だよ。……分かってもらえると、勝手に思い上がった。君が一番大切だった」
「いいのよ。優しい嘘は……残酷だわ。……嘘で慰めてほしい訳じゃないの。……私の気持ちを、分かってほしいだけなの」
「違うって言ってるだろ!嘘じゃない」
俺から目を逸らして呟く芹香を見て、もどかしさが込み上げる。どうして、信じない?あのときも、今も。
芹香の頭を掴んで、顔を無理矢理こちらに向けた。
「えっ。なに?」
驚いた顔の芹香に、勢いよくそのままキスをした。
「んっ!たく……!」
自分を抑えることができない。
ずっと我慢していた。
どうしても、この手に君を取り戻したかった。自分勝手だと思われてもいい。君を感じることが、できるのならば。