ピタッと足を止めた俺を、申し訳なさげに見上げる芹香を見つめ返す。
「ずっと拓哉を忘れようとしてきたのに。ごっごめんね、今さら。……困らせると分かっていたのに、私ったら自分のことばかり……。勝手だよね。佐伯さんと別れた途端に、拓哉といたいだなんて言い出して」
「芹香……」
そんなことを思うわけがない。君を強引に振り向かせようとしたのは俺だ。
「だからね……。暇つぶしでいいの。気持ちなんて、いらないから。拓哉が私を好きでいてくれたのは、過去のことだから。それは分かってるから」
無理に笑う顔が、引きつっている。芹香に、こんなに悲しいことを言わせている自分が、情けない。
「ああ。……本当に芹香は勝手だよ。勝手に俺の気持ちを決めつけてる」
「え……」
不安そうな表情に変わる芹香に、ふっと笑う。
「教えて欲しい……?俺が今、なにを考えているのか」
ずっと、忘れることなんてなかった。君と会えなくなってから、後悔しない日なんて一日もなかった。気持ちなんていらないと言われても、今さらどこにも捨てることができない。
「いらないと言われても、君以外に……ぶつける場所なんてないのに。本当に分からないのか」
「なに……?なんのこと……?」
芹香の質問には答えずに、再び歩きだす。
強烈な支配欲と、甘やかして溶かしてしまいたいような愛情。交互に訪れる芹香への気持ちで、心が大きく揺れた。