退屈な授業を終えてぐっと伸びをする。

そしてそのまま外へ飛び出すと、ひやり冷たい空気。空を見上げると黒い絵の具をぐるぐるかき混ぜたみたいな雲から止む気配のないそれ。


「雨だ……」


はあ、とため息。
とそこで傘ないの?という声に振り向いた。



「…先輩」
「相合傘でもする?」
「ふざけないでください」
「じゃあ濡れて帰ってください」
「すみませんでした入れてください」



その言葉に先輩は勝ち誇った笑みを見せる。その表情にあたしはぐっと顔が強張った。

はい、と紺色の傘を差しだされあたしはお邪魔しますとそっと入り込む。



「手は繋ぐ?」
「は?」



雨の日は嫌いだ。ぽつぽつぽつと傘にあたる雨粒は、ことごとく会話の邪魔をする。だけど。



「聞こえてる?」
「すみませんもう1度言ってください」





――『好きだよ』


その言葉はあたしのすぐ耳元で囁かれた。一瞬雨の音が聞こえなくなって、まるで先輩の声だけが切り取られたみたいに聞こえて。

思わず弛んでしまう口元を隠してあたしはその返事をした。






(少しだけ、雨が好きになれそうな気がした。)