雪がしんしんと降り積もる朝。
ついに受験の日を迎えた俺は、いつもの駅に向かいながら必死に公式を覚えていた。その時。
「詩織?」
「竹内くん!」
最近付き合い始めた彼女が、駅で壁に寄り掛かるように待っていた。
どのくらい待っていたのかわからないけど彼女の頬は林檎のように赤く染まっていて、思わず握った彼女の手は雪みたいに冷たくなっていた。
君も受験生なんだから風邪ひかないでよね、と僕はポケットに常備していたカイロと一緒に彼女の手を握ると、じんわりと熱で溶かされていくようだった。
「…どうしたの?」
「その、お守り渡したくて…」
「うん」
「その…頑張ってね!!」
笑いながら言う彼女に、なんだか胸が高鳴った。
だって、その笑顔も声も、全部可愛いって思えて、彼女のことが“大好きなんだ”って再自覚したんだ。
「ありがとう」
そう言って、
僕は彼女にキスをした。
(あ、さっき覚えた公式が…)
この後、彼女がくれた御守りが必勝ではなく安産祈願だったことに思わず僕の口元がにやけたのは言うまでもない。