「ねえ ママ!ネコちゃんがいるよ!!」

わたしはママの手を引っ張った。めぐちゃんのママとおしゃべりしてるママはこっちを見ずに、あらそうなの、って言った。

ママは雨が上がったからやっと洗濯物が乾くわね、とか話をするのに夢中になってる。めぐちゃんのママもにこにこしながら頷いた。


めぐちゃんは自転車の後ろのイスでお昼寝しちゃってる。ヘルメットが重そうだなってめぐちゃんを見てから、またネコちゃんのほうを見た。

ネコちゃんは幼稚園の門から続く花壇の縁を歩いていた。

「ネコちゃん!!」


わたしが呼んだら、ネコちゃんは止まってこっちを向いた。
まんまるの目がきらんって光った。

「一緒にあそぼ!!」

またネコちゃんの目が光った。
ネコちゃんがくるんと向きをかえてトコトコ歩き出した。

わたしもネコちゃんの後をついていった。

みずたまりを飛び越えながら、だんだん早足になるネコちゃんを追いかけた。

ネコちゃんはときどき立ち止まって、わたしのほうを見る。そのたびにまんまるな目がきらんって光る。

幼稚園の裏手にあるお寺さんに続く赤い花が咲く生け垣の横をネコちゃんが曲がった。

わたしもネコちゃんを追いかけて、小路を曲がる。

「・・・あれ? ネコちゃんどこ?」


ネコちゃんがいなくなってた。

お寺さんの門が閉まってる。両側はなまこ壁が続いていて、もしかしてネコちゃんは壁に登ったのかな? と思って上を見た。

壁の上には紅葉が見えてるだけだった。


「ネコちゃ~ん・・・」

お寺さんはちょっと怖い。
死んだ人が入るお墓があるところだってパパが言ってた。


ネコちゃん、ぜったいこっちに曲がったんだけどな・・・。

お寺さんの門の前まで行ってみよう。
お寺さんの中から誰かが出てきそうで、足音がしないようにゆっくり歩いた。

「ネコちゃ~ん」

だんだん声が小さくなる。
まみずたまりを避けようと思ったとき、みずたまりがきらんって光った。


みずたまりの中にネコちゃんがいた。
ネコちゃんの目が、もっとまんまるになった。


「そこにいたんだね、ネコちゃん!!」

わたしはネコちゃんを追いかけて、みずたまりに飛び込んだ。








「みゆちゃん、だめでしょ! ママから離れたら。探したんだよ」

ママはわたしの顔をハンカチで拭きながらブツブツいってる。

「ねぇみゆちゃん、一体どうしたらこんなに全身びしょ濡れになるの? みずたまりには入らないでっていつも言ってるでしょ」

ママがハンカチをぎゅっと絞ったら、水がポタポタ落ちて地面に吸い込まれた。

みずたまりはすっかり渇いてた。
ネコちゃんはもう、どこにもいなかった。

「おウチに帰って着替えをしたら、おやつにしようね」

ママがにっこりした。
わたしはママの手をぎゅっと握った。




~潜水~
ママには秘密