『わたし、あの星になるの』
窓の外の暗い空を指して彼女は言った。
江ノ電の硝子の窓は雨が幾筋も伝い、情けない顔をした僕の顔が泣いているように映っていた。
『毎晩夜空を見上げたら、わたしを思い出してくれるでしょう?』
僕は彼女の髪を一束掬い、指の間に遊ぶさらさらとした感触を確かめた。
真っ黒で艶やかな髪に口付けてから、隣に座る彼女の肩をふわりと抱いた。
「どうやったら星になれるんだろうな」
腕の中に収まる彼女は、真面目な顔で思案している。
伏せた睫毛が、白い肌に影を作った。
彼女が少し顔をあげ、僕の掌に自分の手を重ねた。
『シャボン玉に入って空まで浮かんでいくの』
僕をまっすぐに見る彼女の目は灰がかかったように濁っていた。
――― 僕は、亡くなった彼女をまだ送れずにいる。彼女は星になりたいと願っているというのに。
窓の外は相変わらず雨が降り続いている。
『ねぇ、いい考えでしょう?』
彼女は永遠に失わない無邪気さで僕を見た。
「そうだな、じゃあシャボン玉が必要だな」
窓の外は真っ暗闇だ。由比ヶ浜を縁取るように江ノ電は進む。
踏み切りを通り過ぎる一瞬、遮断機の向こうの石段に猫が見えた。雨に打たれる猫の尾が、ゆらりと揺れた。
「ごめん・・・」
口から、言葉がこぼれ出た。
猫の尾が、ゆらりと踊っているように見えた。
~雨のダンス~
諦めきれない僕を赦して。