「でもラブラブなやすまっさんと由未をそばでずっと見てるとさ、女の子とただ遊んでても虚しくってさ。ちゃんと1対1で向き合って愛し合える人が欲しくなった。そんな時に、百合子に引き合わせてもらえたんだよ。タイミングも外見も中身も、パーフェクト!こういうのを仏教で『ご縁』っていうのかって、感動した。」

自分の中身には全然自信のない私は、つい言ってしまった。
「碧生くん、悪趣味。私、きついし、わがままだし、馬鹿だし……。」

「かわいいよ。百合子は常に周囲に気遣って、分をわきまえて、自分を律して、自戒してるだろ。偉いなとは思うけど、のびのびと解放してあげたい、って思ってる。だから、俺に甘えてくれるの、すごくうれしい。……納得した?」

そんな風に言われて、私はうれしいのか恥ずかしいのか自分でもよくわからなくなった。
ただ、これからも碧生くんに甘えていい、という免罪符をもらえたことは理解した。

「内緒、って、もう言わない?」
碧生くんは、ちょっと笑った。
「よっぽど嫌だったんだ。ごめんね。もう、言わない。」

「合コン行く?」
「いや!行かない行かない。てか、本当に行ってないから。クラスの飲み会は出るけど、むしろ、由未に悪い虫がつかないように、やすまっさんにお目付役に派遣されてるというか。……キャンパスでは由未といるし、サークルより謡の会ややすまっさんと遊ぶほうが楽しいし。ほんとだよ?由未に聞いてよ。」

「……信じる。」
碧生くんは、嘘はつかないと思う。

義人さんのような優しい嘘さえも、つかなさそう。

だから信じられる。
……というより、信じたい……今は。

碧生くんが表情を改めた。
「さっき、水島と昼飯食ってきたんだけどさ。」

ドキーン!と、心臓が跳ね上がった。
「水島のS級デビュー戦は、名古屋なんだって。一緒に応援に行ってみない?」

あ、そう言えば、前に水島くん、そんなこと言ってたっけ?
「7月って、テスト前じゃない?大丈夫?」

「1日ぐらい問題ないよ。レポートぐらいなら手伝ってあげてもいいし。」
「自分でするからけっこうです!……と言いたいところだけど、卒論までに碧生くんに教えてもらおうかな、古文書資料の読み方。」

「え?」
碧生くんが目を丸くして、聞き直してきた。
「……経済学部だよね?経済史?するの?」

「まだ決定じゃないけど。ほら、3月に歩いたでしょ?いっぱい。淀川とかびわこ疎水沿いとか。水運、おもしろいかな、って。」
まだ漠然としたイメージしかない。
水運と一口に言っても、松前船、高瀬川、琵琶湖、伏見、蔵屋敷……たくさんありすぎて絞れない。

すると、碧生くんは顔を輝かせた。
「幕末にしなよ!資料いっぱいあげる!マジでいいと思うよ。経済学部系の経済史の連中は、古文書を読みこめてないし、データの使い方の雑な奴が多いから。」

そういうものなの?

よくわからないけど、頼りになりそうで、ほっとした。