くっくっく……と低い声で碧生くんが笑った。
「……敬語になってるよ、百合子。」

ホントだ。

「かわいいなあ。心配しなくても、百合子だけだよ。あ、やすまっさんとも酔っ払うとハグするけど。」

……何やってるんですか……恭匡さん……。
あの従兄が、天花寺の恭匡さんが……信じられない。
碧生くんって、やっぱりすごいかもしれない。

「碧生くん、誰とでも仲良くなれるのね。……うらやましいわ。」
心からそう言った。

「……そうでもないよ。」
頭をかいて、碧生くんは私から離れた。
その顔が少し赤くなっていた。
「苦手な人、いるの?」
「苦手というか……決して嫌いじゃないし、むしろ仲良くなりたいんだけど、仲良くの意味が違うというか……上手く関係を構築できなかった人は何人もいるよ。」

首をかしげると、碧生くんは苦笑した。
「つまりね、俺は普通に女性が好きだから、男性に恋愛対象として見られても気持ちに応えられなくてね。」

それは、確かに……難しいかも……。
「やっぱり、アメリカってゲイの人いるのね。」
しみじみそう言うと、碧生くんは、うーんと唸った。

「それが、日本人なんだよね~。俺、ゲイに好かれやすいのかも。」
「ゲイに、じゃなくて、誰からも好かれるんじゃないかしら。……大学でもモテるでしょ?」
「どうかな。チャラいって言われるし、合コンの誘いは多いけど。……百合子は?真面目な男に懸想されてそう。」
「すぐ断るから、それで終わり。……合コン行くの?お持ち帰ることもある?ねえねえねえ。」

私はしつこく聞いた。
ゲイの話もおもしろそうだけど、東京での碧生くんのキャンパスライフがすごく気になった。

「内緒。」
碧生くんは、返事を逃げた!
……適当に楽しく遊んでる、ってことよね……そうよね……。

何となく淋しく感じて、私も逃げ出した……自室へ。

頭を冷やそう。
私は、碧生くんに対して何の権利も義務もない。
碧生くんが誰と付き合おうと、誰と遊ぼうと、何も言えない。
ちゃんとわかっているはずなのに、納得できてない自分を持て余した。

いや、そもそも!
碧生くんの日常生活をやたらに知りたがった自分に驚く。
一ヶ月前には気にもしなかったのに。

……しかも、その間に私は別の人を好きになったのに……

ワガママ過ぎるんじゃないだろうか、私。
いくら碧生くんといるのが居心地いいと言っても、それは恋愛じゃない。

なのに、碧生くんの心と身体を束縛しようとしてる?

自己嫌悪に陥りそう。