そして、いきなりすごいスピードを出して赤信号を無視して突っ切った。
右から左から大きなクラクションを鳴らされる。
シートベルトをしていても、ベンチシートは収まりが悪く、左右にぶんぶん揺れた。

「重注(重大走行注意)で済みませんよ、これ。」
バランスを崩した私を、泉さんは左腕で抱えるように抱き留めた。

「誰のせいやねん。」
噛みつくようにそう言われて、驚いた。
「私のせい?ですか?」

泉さんは、顔をしかめて舌打ちした。
「俺を苛つかせんな。ヘラヘラしとけ。うっとおしい顔すんな。」

ヘラヘラ……。
ものすごく身勝手な言葉に聞こえるけど、それって「俺のそばでは幸せそうに笑っていてほしい」って意味でいいのかしら。

やっぱりこの人って、宇宙人だわ。

私は全身の力を抜いて、泉さんの肩……というよりも、広い胸にしなだれかかるようにもたれた。

シートベルトのインナーバックルがけっこう突き出てるので痛いけれど、そこは我慢してみる。

すると今度は、信号で止まる度にキスされた。
危ないとか、もうどうでもよくなってくる。
赤信号を心待ちにして、唇をねだった。

「ずっとそういう顔してたらええわ。」
満足そうに泉さんは言ったけれど、そのためには泉さんの力が必要ってわかってないのかしら。

「では、ずっとこうしててください。」
そう言って、微笑んでみせた。

「アホな。練習できひんやんけ。」
呆れる泉さんに私も苦笑した。

ただの戯れ言ですってば。

「……練習の合間でいいです。」

すると泉さんは、ぐいっと私の髪を引っ張って自分の胸から引き剥がした。

「痛いです……」
乱暴な扱いに抗議すると、泉さんは意地悪い目で私を見て言った。

「俺には、お嬢様に振り回されてる時間なんかないねん。注文つけるような女、こっちからお断りじゃ、ボケが!」

ひどい……。
……夢見心地と地獄との間を引きずり回されてるよう。
とてもついていけない……感情の起伏の激しさに。

泉さんから離れようとしたけれど、髪をつかまれていて身動きが取れなかった。



自宅に到着した。

泉さんは、ようやく私の髪から手を放すと、そのままあごに手を回して私の顔を上げさせた。

冷たい目が熱を帯びた。
たまらない……。
どうしよう……やっぱり、好き。
とても見てられず、目を閉じてキスを待った。

「口、開けぇ。」
そう言われて、少し唇を開いた。

……唇でも舌でもなく、唾液を流し込まれた。