その晩、フランツは公務で遅くまで部屋に戻らなかった。
考え事をしていたディアナはいつの間にかうたた寝をしていたようで、扉が叩かれる音で目を覚ました。
すでに窓の外は闇が深いようだった。
「ディアナ、起きているかい?私だが、少し話をいいかな?」
寝間着姿だったディアナは慌てて何か上から羽織れるものを手に取った。
扉を開けると、やわらかな金色の髪がまぶしい。
その金色の髪をさらりと揺らし、ディアナの手の甲にそっと口づけをした。
皇子の自然な素振りに、馴れないディアナはどぎまぎしてしまう。
「寝ていたの?」明かりの消された部屋をちらりと見やり、フランツ皇子がいう。
ほのかなお酒の香りと、フランツのいつもとは違う潤んだ瞳。その瞳はなんだか妖艶な色気を放つようで・・
ディアナは皇子の香りに包まれて身体の奥がきゅん、と反応するようだった。
「・・少し、うたた寝していたみたいで。」
「・・・・・。」
「フランツ皇子、どうかされたのですか?」
無言で見つめられ、ディアナはどうしたらいいかわからず、言葉を発した。
フランツの瞳が花が咲くようにほころんで、笑みがこぼれる。
「ただディアナの瞳が見たくなって。」
「な、なにを…。」
一気に熱くなった顔を隠したくて、頬に当てようとした手を、フランツ皇子がすっと握り放さない。
仕方なく、ディアナは空いているもう一方の手だけで顔を隠す形になる。
「きみの瞳は私にどこかなつかしいと思わせる力があるんだよ。
それは安らぎをあたえてくれる・・まるでね。」
ディアナは耳まで燃えるように熱くなっていた。
女性への扱いが上手いようなのは、この国の男性みんななのだろうか。
だとしたら、フランツ皇子はきっと特にそうなんだ、とディアナは思った。
出会ったときからフランツ皇子は、何かにつけてディアナをかまってくれるので恥ずかしかったり、どきどきしてしまったり。。ディアナは困ってしまうことが多い。
救いに来たはずが、皇子のペースに巻き込まれているだけみたいだった。
アイザック様も甘いマスクでさらっと恥ずかしいことを、なんでもないことのように言われるけれど、それでも皇子ほど何かにつけて触ったり口づけをしたりということはない。
だから胸のどきどきは抑えられるほうだ。
ウェルスター様は全くそういうことは口にされない。
ウェルスター様の私を見る目は特別に・・厳しい。
そうだ、むしろ、フランツ皇子が私を受け入れてくれていることの方が驚きで、とてもありがたいことなんだ。
もし、逆だったら、逆の立場だったら、私は私のような人を疑うことなく受け入れて守ってあげられるだろうか・・?
沸いてきた自問の念に、フランツの瞳を見上げる。
甘く揺れる瞳が注がれていて、ディアナはまたぱっと顔を隠してしまった。
≪皇子はもしかするとこういう言い方に慣れているのかもしれないけれど・・≫
ディアナは目の前に迫った皇子の瞳を、とてもそれ以上は直視できそうになかった。
「瞳を隠さないで。」
≪そんなこと言ったって・・≫
もう一方の手も掴まれ、そっと下ろされる。
薄青いその瞳に見つめられて、視線をそらすこともできなくなる。
吐息が熱くなる。顔が火を噴きそうなほど熱い。。
フランツがくすっと笑う。
「どうしてだろう、ディアナの瞳をみているだけで・・私は・・」
「な、なつ、、なつかしいのですね。」
「きみを離したくなくなってしまう。」
皇子の手がふとディアナの右腕にうつる。
羽織った布の上から傷のあたりを避け、そっと触れる。
「傷はまだ痛む?」
「いいえ、もう!深い傷ではなかったので。毎日マレーさんがお薬も塗ってくれているし、大分よくなりました!」答える声に思わず力が入ってしまっている。
「それはよかった。」
そっと右腕をなでるフランツ。
「明日の昼、食事会をすることになった。」
甘かった瞳がすっと現実に戻るように揺らめきをおさえていく。
「レデオン卿の体調が戻ったので、その祝いもかねて開かれることになった。
ディアナも同席してほしい。」
「私が?私が公務に同席して・・皇子のご迷惑にならないのですか?」
ディアナは首を傾げて言った。この国の何も知らない異端者なのだから、人前に出ることに躊躇した。
「この会の発案者はブリミエル卿だ。
私に『あの時一緒にいた美姫も』と、ディアナのことをわざわざ指名してきた。
何か企みがあってのことかもしれないが、きみと一緒にいたことを公にしなければ、
私はあの場に一人ではなかったという証明ができない。
どんな企みがあるにせよ、私が守って見せる。」
フランツの瞳が光った。
「一緒に来てくれるね?」
皇子のやわらかく熱いまなざしが降り注ぐ。
「はい。それで皇子の役に立てるのなら。」
≪この人はいつも守ってくれるようとする。。私が守らなきゃいけないのに。。
いいえ、私が皇子を守るの。そのために来たのだから。≫
つん、眉間に皇子の指が優しく触れた。
「難しい顔をしているよ。」
「っ!」
「笑っていておくれ。ディアナを守るのは私の役目だ。大丈夫。恐い思いはさせない。」
ふわりと金色の髪が私の視界を遮って、、額にやわらかな唇の感触が降りてきた。
「っ!!」
「おやすみ、ディアナ。よい夢を。」
パタン、と扉が閉じられた。。。
ディアナはとても眠れそうになかった。。。
考え事をしていたディアナはいつの間にかうたた寝をしていたようで、扉が叩かれる音で目を覚ました。
すでに窓の外は闇が深いようだった。
「ディアナ、起きているかい?私だが、少し話をいいかな?」
寝間着姿だったディアナは慌てて何か上から羽織れるものを手に取った。
扉を開けると、やわらかな金色の髪がまぶしい。
その金色の髪をさらりと揺らし、ディアナの手の甲にそっと口づけをした。
皇子の自然な素振りに、馴れないディアナはどぎまぎしてしまう。
「寝ていたの?」明かりの消された部屋をちらりと見やり、フランツ皇子がいう。
ほのかなお酒の香りと、フランツのいつもとは違う潤んだ瞳。その瞳はなんだか妖艶な色気を放つようで・・
ディアナは皇子の香りに包まれて身体の奥がきゅん、と反応するようだった。
「・・少し、うたた寝していたみたいで。」
「・・・・・。」
「フランツ皇子、どうかされたのですか?」
無言で見つめられ、ディアナはどうしたらいいかわからず、言葉を発した。
フランツの瞳が花が咲くようにほころんで、笑みがこぼれる。
「ただディアナの瞳が見たくなって。」
「な、なにを…。」
一気に熱くなった顔を隠したくて、頬に当てようとした手を、フランツ皇子がすっと握り放さない。
仕方なく、ディアナは空いているもう一方の手だけで顔を隠す形になる。
「きみの瞳は私にどこかなつかしいと思わせる力があるんだよ。
それは安らぎをあたえてくれる・・まるでね。」
ディアナは耳まで燃えるように熱くなっていた。
女性への扱いが上手いようなのは、この国の男性みんななのだろうか。
だとしたら、フランツ皇子はきっと特にそうなんだ、とディアナは思った。
出会ったときからフランツ皇子は、何かにつけてディアナをかまってくれるので恥ずかしかったり、どきどきしてしまったり。。ディアナは困ってしまうことが多い。
救いに来たはずが、皇子のペースに巻き込まれているだけみたいだった。
アイザック様も甘いマスクでさらっと恥ずかしいことを、なんでもないことのように言われるけれど、それでも皇子ほど何かにつけて触ったり口づけをしたりということはない。
だから胸のどきどきは抑えられるほうだ。
ウェルスター様は全くそういうことは口にされない。
ウェルスター様の私を見る目は特別に・・厳しい。
そうだ、むしろ、フランツ皇子が私を受け入れてくれていることの方が驚きで、とてもありがたいことなんだ。
もし、逆だったら、逆の立場だったら、私は私のような人を疑うことなく受け入れて守ってあげられるだろうか・・?
沸いてきた自問の念に、フランツの瞳を見上げる。
甘く揺れる瞳が注がれていて、ディアナはまたぱっと顔を隠してしまった。
≪皇子はもしかするとこういう言い方に慣れているのかもしれないけれど・・≫
ディアナは目の前に迫った皇子の瞳を、とてもそれ以上は直視できそうになかった。
「瞳を隠さないで。」
≪そんなこと言ったって・・≫
もう一方の手も掴まれ、そっと下ろされる。
薄青いその瞳に見つめられて、視線をそらすこともできなくなる。
吐息が熱くなる。顔が火を噴きそうなほど熱い。。
フランツがくすっと笑う。
「どうしてだろう、ディアナの瞳をみているだけで・・私は・・」
「な、なつ、、なつかしいのですね。」
「きみを離したくなくなってしまう。」
皇子の手がふとディアナの右腕にうつる。
羽織った布の上から傷のあたりを避け、そっと触れる。
「傷はまだ痛む?」
「いいえ、もう!深い傷ではなかったので。毎日マレーさんがお薬も塗ってくれているし、大分よくなりました!」答える声に思わず力が入ってしまっている。
「それはよかった。」
そっと右腕をなでるフランツ。
「明日の昼、食事会をすることになった。」
甘かった瞳がすっと現実に戻るように揺らめきをおさえていく。
「レデオン卿の体調が戻ったので、その祝いもかねて開かれることになった。
ディアナも同席してほしい。」
「私が?私が公務に同席して・・皇子のご迷惑にならないのですか?」
ディアナは首を傾げて言った。この国の何も知らない異端者なのだから、人前に出ることに躊躇した。
「この会の発案者はブリミエル卿だ。
私に『あの時一緒にいた美姫も』と、ディアナのことをわざわざ指名してきた。
何か企みがあってのことかもしれないが、きみと一緒にいたことを公にしなければ、
私はあの場に一人ではなかったという証明ができない。
どんな企みがあるにせよ、私が守って見せる。」
フランツの瞳が光った。
「一緒に来てくれるね?」
皇子のやわらかく熱いまなざしが降り注ぐ。
「はい。それで皇子の役に立てるのなら。」
≪この人はいつも守ってくれるようとする。。私が守らなきゃいけないのに。。
いいえ、私が皇子を守るの。そのために来たのだから。≫
つん、眉間に皇子の指が優しく触れた。
「難しい顔をしているよ。」
「っ!」
「笑っていておくれ。ディアナを守るのは私の役目だ。大丈夫。恐い思いはさせない。」
ふわりと金色の髪が私の視界を遮って、、額にやわらかな唇の感触が降りてきた。
「っ!!」
「おやすみ、ディアナ。よい夢を。」
パタン、と扉が閉じられた。。。
ディアナはとても眠れそうになかった。。。