すっかりディアナの意識が戻ったのは、フランツが遠征に出発して3日目のことだった。
マレーはディアナの目覚めを泣いて喜んだ。
ディアナの護衛に残っていたアイザックは、早馬を飛ばしフランツに知らせを送った。
目覚めたディアナのベッドのそばで、マレーもアイザックも嬉々としている。
眠りっぱなしですっかり体力の落ちてしまったディアナは
身体を起こしていられず、たっぷりのクッションにすぐに身体を預けた。
「わたし、一体、、」
「あなた様はブリミエル卿の仕込んだ毒で、、倒れられていたのです。」
ディアナはぼんやりとした瞳で思い出すようにすると、
あ、と小さく口を開けた。
「思い出されましたか・・?」
「ダメですよ・・、思い出されるなんて。今はまだお身体に触りますよ・・」
涙を溜めた目でマレーが鼻をすすり、ディアナのそばに寄った。
「ささ、これを少し召し上がって。」
マレーはディアナが目覚めた時いつでも出してあげられるように、と
用意していたミルク粥をディアナの口に少し運んだ。
ゆっくりと飲みこむ。
「ディアナ様・・ご無事で何よりです・・
あなたとレデオン卿に害を加えたブリミエル卿は捕らえられました。
どうぞご安心ください。」
口に運ばれる温かさに、ディアナの身体も温かさを取り戻していくようだった。
「私が付いていながら・・」
アイザックのつぶやきに、ディアナは首を振った。
力が入らない身体では首は少し髪を揺らす程度だったけれど。
「さ、もう少し横になって下さいませ。体力を戻されないと。」
そこからはマレーの出番だった。
ディアナはマレーの看護でみるみる体力を取り戻していった。
常に身体を鍛えているレデオン卿の時より回復に時間はかかっていたが、
目覚めから3日目で、ディアナはやっとベッドから起き上がれるようになっていた。
早く回復したい、ディアナもその一心だった。
ディアナは枕の下にいれたフランツからの手紙を見ては元気づけられるようだった。
そこにはディアナの回復を喜び、今すぐにでも駆け付けたいが今は戦地を離れるわけにいかず
そばにいられず心痛いこと、たくさん食べてしっかり回復するように、ということが
書かれてあった。
フランツ皇子が送ってくれた便りのとおり、しっかり回復して、
フランツ皇子の心配にならないようにしたいと、思った。
ディアナにとっても、戦地へ一緒に行けなかったことがむしろ心痛かった。
そばに駆け付けたい、その気持ちが少しでも多く食べ、回復への気力を起こしているようだった。
マレーはそんなディアナを見て複雑な気持ちだった。
「ディアナ様、お身体に触りますよ・・」
フランツが経って6日目だった。
紛争は当初の見込みと違う様相を呈していた。
名高いザンジュール騎士団が現れても、シラー国の軍は全く手をひこうとしないのだった。
むしろ戦争を好むような様子が見られる。
フランツも和議を望んで来たが、協議にすら入ることができず、その地にとどまらざるを得なかった。
日数が延びるにつれ、ザンジュール国内からは『救い』の早い回復と
皇子のもとに『救い』がいないから収束がつかないのではないか、という根拠のない噂が立ち始めた。
それらは国民の一刻も早い平和への願いの声だった。
国境付近の駐屯地、
ざっと並ぶ銀灰色の兵の姿。
白いマントを肩につけた騎士団がその前列を占めている。
その隊列の前に、ひときわ輝く銀色の甲冑を身に着け、白いマントを肩からつけた騎士がいる。
銀色の馬具をつけた立派な黒毛の馬に乗っている。フランツ皇子だった。
フランツは甲冑の下に青い玉の首飾りを付けていた。
その辺りに手をやる。
≪ディアナ・・≫
眠るディアナから外してきた首飾りを、フランツは自分の首に掛けていた。
みなが口々に叫ぶ『救い』という役目。
それは私が彼女に負わせてしまったもの。
その役目がなければ、ディアナは苦しい目に合わずに済んだかもしれない。
自分が負わせた役目を、その肩の荷をおろさせてやりたかった。
私はこの国の皇子として、その役目を果たす
「みな、よく聞け。伝説の『救い』が現れたことはみなも知っていよう。
伝説のその青い玉は今私のもとにある!古の竜の加護は、常に我らの傍にある!我らに勝利を!」
フランツは胸元に拳を当て、腹の底から響くような声で味方の兵を鼓舞した。
大地がうなるように、時の声が上がった。
前方に迫りくるシラー軍を迎え撃つ・・・
☆☆☆
フランツたちの戦況の様子は、城に届けられる報告によりディアナの耳にも入っていた。
このところの様相の変化にディアナは不安で居ても立ってもいられず、
心配でため息が漏れることが多かった。
そばに行きたいと必死で気力を回復させていた。
「アイザック、お願い!フランツ皇子のところへ、私を連れて行って!」
ディアナの懇願にアイザックは首を縦に振らなかった。
今度こそディアナの安全を守るとフランツ皇子に誓っていたのだ。
「駄目ですよ、和議への交渉もいまだなっていないところへ連れて行くなんて、できません。」
「私が皇子のそばへ行かないなんて、『救い』の役目は何だというの?!」
「それはディアナ様がお元気だった時のお話。今はそのお身体では
馬にも乗れませんよ。」
「だけど今行かなきゃ・・!」
アイザックは頑として承知しない。
「皇子様はあなた様の首飾りをお持ちになりました。
それだけで皇子なら、何とでも『救い』不在の納得のいく理由をみなに説明されているでしょう。」
ディアナは言葉に詰まった。胸元から外された青い石。それが元あったあたりに手をやる。
ディアナが気づいた時、青い石は既に鎖ごとそこからなくなっていたのだった。
アイザックから皇子が持って行ったことを聞いた。
だが、あれがなんだというのか。変わった石に過ぎないはず。
そこに特別な力があるわけでもないはず。
「お願い、私、どうしても行かなきゃいけない気がするの・・!」
ディアナは胸騒ぎがしていた。
そこへ急ぎだと知らせが入った。
フランツ皇子の乗る馬が弓に射られ、皇子が落馬して負傷したというのだ。
ディアナは心臓がぎゅっと掴まれるようだった・・・
マレーはディアナの目覚めを泣いて喜んだ。
ディアナの護衛に残っていたアイザックは、早馬を飛ばしフランツに知らせを送った。
目覚めたディアナのベッドのそばで、マレーもアイザックも嬉々としている。
眠りっぱなしですっかり体力の落ちてしまったディアナは
身体を起こしていられず、たっぷりのクッションにすぐに身体を預けた。
「わたし、一体、、」
「あなた様はブリミエル卿の仕込んだ毒で、、倒れられていたのです。」
ディアナはぼんやりとした瞳で思い出すようにすると、
あ、と小さく口を開けた。
「思い出されましたか・・?」
「ダメですよ・・、思い出されるなんて。今はまだお身体に触りますよ・・」
涙を溜めた目でマレーが鼻をすすり、ディアナのそばに寄った。
「ささ、これを少し召し上がって。」
マレーはディアナが目覚めた時いつでも出してあげられるように、と
用意していたミルク粥をディアナの口に少し運んだ。
ゆっくりと飲みこむ。
「ディアナ様・・ご無事で何よりです・・
あなたとレデオン卿に害を加えたブリミエル卿は捕らえられました。
どうぞご安心ください。」
口に運ばれる温かさに、ディアナの身体も温かさを取り戻していくようだった。
「私が付いていながら・・」
アイザックのつぶやきに、ディアナは首を振った。
力が入らない身体では首は少し髪を揺らす程度だったけれど。
「さ、もう少し横になって下さいませ。体力を戻されないと。」
そこからはマレーの出番だった。
ディアナはマレーの看護でみるみる体力を取り戻していった。
常に身体を鍛えているレデオン卿の時より回復に時間はかかっていたが、
目覚めから3日目で、ディアナはやっとベッドから起き上がれるようになっていた。
早く回復したい、ディアナもその一心だった。
ディアナは枕の下にいれたフランツからの手紙を見ては元気づけられるようだった。
そこにはディアナの回復を喜び、今すぐにでも駆け付けたいが今は戦地を離れるわけにいかず
そばにいられず心痛いこと、たくさん食べてしっかり回復するように、ということが
書かれてあった。
フランツ皇子が送ってくれた便りのとおり、しっかり回復して、
フランツ皇子の心配にならないようにしたいと、思った。
ディアナにとっても、戦地へ一緒に行けなかったことがむしろ心痛かった。
そばに駆け付けたい、その気持ちが少しでも多く食べ、回復への気力を起こしているようだった。
マレーはそんなディアナを見て複雑な気持ちだった。
「ディアナ様、お身体に触りますよ・・」
フランツが経って6日目だった。
紛争は当初の見込みと違う様相を呈していた。
名高いザンジュール騎士団が現れても、シラー国の軍は全く手をひこうとしないのだった。
むしろ戦争を好むような様子が見られる。
フランツも和議を望んで来たが、協議にすら入ることができず、その地にとどまらざるを得なかった。
日数が延びるにつれ、ザンジュール国内からは『救い』の早い回復と
皇子のもとに『救い』がいないから収束がつかないのではないか、という根拠のない噂が立ち始めた。
それらは国民の一刻も早い平和への願いの声だった。
国境付近の駐屯地、
ざっと並ぶ銀灰色の兵の姿。
白いマントを肩につけた騎士団がその前列を占めている。
その隊列の前に、ひときわ輝く銀色の甲冑を身に着け、白いマントを肩からつけた騎士がいる。
銀色の馬具をつけた立派な黒毛の馬に乗っている。フランツ皇子だった。
フランツは甲冑の下に青い玉の首飾りを付けていた。
その辺りに手をやる。
≪ディアナ・・≫
眠るディアナから外してきた首飾りを、フランツは自分の首に掛けていた。
みなが口々に叫ぶ『救い』という役目。
それは私が彼女に負わせてしまったもの。
その役目がなければ、ディアナは苦しい目に合わずに済んだかもしれない。
自分が負わせた役目を、その肩の荷をおろさせてやりたかった。
私はこの国の皇子として、その役目を果たす
「みな、よく聞け。伝説の『救い』が現れたことはみなも知っていよう。
伝説のその青い玉は今私のもとにある!古の竜の加護は、常に我らの傍にある!我らに勝利を!」
フランツは胸元に拳を当て、腹の底から響くような声で味方の兵を鼓舞した。
大地がうなるように、時の声が上がった。
前方に迫りくるシラー軍を迎え撃つ・・・
☆☆☆
フランツたちの戦況の様子は、城に届けられる報告によりディアナの耳にも入っていた。
このところの様相の変化にディアナは不安で居ても立ってもいられず、
心配でため息が漏れることが多かった。
そばに行きたいと必死で気力を回復させていた。
「アイザック、お願い!フランツ皇子のところへ、私を連れて行って!」
ディアナの懇願にアイザックは首を縦に振らなかった。
今度こそディアナの安全を守るとフランツ皇子に誓っていたのだ。
「駄目ですよ、和議への交渉もいまだなっていないところへ連れて行くなんて、できません。」
「私が皇子のそばへ行かないなんて、『救い』の役目は何だというの?!」
「それはディアナ様がお元気だった時のお話。今はそのお身体では
馬にも乗れませんよ。」
「だけど今行かなきゃ・・!」
アイザックは頑として承知しない。
「皇子様はあなた様の首飾りをお持ちになりました。
それだけで皇子なら、何とでも『救い』不在の納得のいく理由をみなに説明されているでしょう。」
ディアナは言葉に詰まった。胸元から外された青い石。それが元あったあたりに手をやる。
ディアナが気づいた時、青い石は既に鎖ごとそこからなくなっていたのだった。
アイザックから皇子が持って行ったことを聞いた。
だが、あれがなんだというのか。変わった石に過ぎないはず。
そこに特別な力があるわけでもないはず。
「お願い、私、どうしても行かなきゃいけない気がするの・・!」
ディアナは胸騒ぎがしていた。
そこへ急ぎだと知らせが入った。
フランツ皇子の乗る馬が弓に射られ、皇子が落馬して負傷したというのだ。
ディアナは心臓がぎゅっと掴まれるようだった・・・