フランツに促され、レデオンが口を開く。
「私はリネ姫さま、いえ、ここでは大丈夫ですかな、ディアナという少女のことを伝説の救いだと受け入れました。
怪しまないことを不審に思われたかもしれませんが、それは私が伝説の青い玉を信じていたからです。」
レデオンの目はまっすぐに皇子に向けられている。
フランツは話の流れを見つめている。
「ウェルスター卿、皇子に彼女についての報告を。」
「はい。」
ウェルスターが続きを引き受ける。
「皇子、私が調べた限り、ディアナにつながると思われる情報も痕跡も失踪者も一切、何もありませんでした。
青い玉については、以前ご報告した通り、我が国の宝石商では見たことがないとのことでした。宝石商のつながりのある他国を行商する宝石商でも、全く初めて見る玉とのことです。
これらから、ディアナは少なくともこのザンジュールには居なかった者かと
思われます。」
忠臣二人が皇子を見つめる。フランツは頷く。
「ディアナはこの国の者ではないとはじめから告げていた。
その通りだった、ということだな。その点で彼女の疑いは晴れたわけだ。」
「ええ、どこか、というのはわかりかねますが。」
調べ上げたが全く痕跡が無いことにもウェルスターは納得がいかないようだったが、ディアナが嘘を言っていないことは認めなければならなかった。
「皇子、私はそのウェルスター卿の話を昨夜聞き、確信せざるを得なくなったのです。それでこうして、早い時間でしたが、ウェルスター卿とともにお目通りを願い出た所存なのです。」
「確信?何をだ?」
「その少女は伝説の救いだということをです。」
「救い?存在していた証拠のなかったディアナを、今度は卿は何を根拠に救いだと信じるのか?」
「はい、お話申し上げます。
私は青い玉が彼女の存在を認めさせる証拠だと信じます。
私は宰相の職務に就くまで、この国のためになりたいとあらゆる文献を読みふけっておりました。
過去の歴史から、よりよい未来を創ることができると信じていたからです。
その時、この国の文献に「青い玉」の話が度々出ていました。
平和が続いている今でこそ、伝説のように伝えられていますが、文献の中では青い玉は実在の宝物として語られていました。」
「その王の作りし国が危機に瀕したとき、青い竜が現れ、その王と国を守らん。」
「そうです。その青い竜が救いだとされています。
人々の口づてに広まった伝説では青い竜がどうやって出現したのか語られていませんが、文献には記されてあるのです。
竜の出現の際にはいつも『青い玉が光り輝きだし、青い竜が現れた』とはっきり記されているのです。
その少女の持つ青い玉、誰も見たことのない青い玉、それは青い竜を呼ぶための青い玉に違いないと思うのです。」
「それで、卿はディアナを誰かの手先か何かだとは疑わないというのか?」
フランツはふっと笑った。
「はい、青い竜はこの国とその王を守るもの。
この状況下で次期国王であるフランツ皇子のもとへ現れたのは、この混乱をまとめ導くため、力添えに来たのかと。
なぜそれが少女の形をしているのかはわからないところですし、昨夜からウェルスターとともに再度文献を調べなおしましたが、女や男が現れたと記している文献はありませんでした。」
「卿が伝説など信じるとは思わなかったな。」
「いえ、これが根も葉もある文献に記載されている話だからです。
ただの作り話ではありません。」
「だが、卿はその歴史をその目で見てきたのでないだろう?」
「はい、青い玉の出現があったのは一番近い時期で150年前のようですので。」
「私はディアナを少なくとも怪しい者だとは思っていない。
だからレデオン卿が疑わないでいてくれるのは、ディアナにとって針のむしろのような視線がひとつ減るという点では、いいことだと思う。
だが、それだけだ。私も青い玉を見て、最初はとっさに伝説の救いだとは言ったがそれはあの状況だったからだ。ブリミエルを捕らえることができて、私もディアナも安全が確保できれば、その時は彼女を家に帰してやりたいし、そう約束した。
私は不確かな伝説には頼らない。
ウェルスターがディアナの調査をしてくれたおかげで、国外のどこに帰せばいいかわかるかとも思ったが、どこに帰せばいいかまだわからないということがわかったよ。」
ウェルスターに視線を送る。
「ディアナは私を狙う刺客ではない。」
≪ウェルスターもディアナの近くで接してみればわかる≫と言いかけたが、
やめておいた。ライバルをわざわざ増やすことはないだろう。
「では、ディアナついての話はこれで終わっていいかな?
私は二人とシラーとの国境への遠征について話をしたい。」
「それも含め、フランツ皇子、ここからが本題です。
伝説を利用してシラーとの国境のいざこざも抑え、ブリミエルらの勢力も黙らせてしまいましょう。」
レデオン卿が口元をぐっとあげる。
ウェルスターも「私もそれには賛成です。」と頷いてみせた。
どうやら、彼らはただの伝説やらの話をしに来たのでないようだった。
「続きを聞こう。」
フランツは二人の話をじっくり聞くことにした。
伝説を利用する、とはどういうことなのか。
ディアナはどうなるのか、フランツを含めて作戦会議が行われた。
「私はリネ姫さま、いえ、ここでは大丈夫ですかな、ディアナという少女のことを伝説の救いだと受け入れました。
怪しまないことを不審に思われたかもしれませんが、それは私が伝説の青い玉を信じていたからです。」
レデオンの目はまっすぐに皇子に向けられている。
フランツは話の流れを見つめている。
「ウェルスター卿、皇子に彼女についての報告を。」
「はい。」
ウェルスターが続きを引き受ける。
「皇子、私が調べた限り、ディアナにつながると思われる情報も痕跡も失踪者も一切、何もありませんでした。
青い玉については、以前ご報告した通り、我が国の宝石商では見たことがないとのことでした。宝石商のつながりのある他国を行商する宝石商でも、全く初めて見る玉とのことです。
これらから、ディアナは少なくともこのザンジュールには居なかった者かと
思われます。」
忠臣二人が皇子を見つめる。フランツは頷く。
「ディアナはこの国の者ではないとはじめから告げていた。
その通りだった、ということだな。その点で彼女の疑いは晴れたわけだ。」
「ええ、どこか、というのはわかりかねますが。」
調べ上げたが全く痕跡が無いことにもウェルスターは納得がいかないようだったが、ディアナが嘘を言っていないことは認めなければならなかった。
「皇子、私はそのウェルスター卿の話を昨夜聞き、確信せざるを得なくなったのです。それでこうして、早い時間でしたが、ウェルスター卿とともにお目通りを願い出た所存なのです。」
「確信?何をだ?」
「その少女は伝説の救いだということをです。」
「救い?存在していた証拠のなかったディアナを、今度は卿は何を根拠に救いだと信じるのか?」
「はい、お話申し上げます。
私は青い玉が彼女の存在を認めさせる証拠だと信じます。
私は宰相の職務に就くまで、この国のためになりたいとあらゆる文献を読みふけっておりました。
過去の歴史から、よりよい未来を創ることができると信じていたからです。
その時、この国の文献に「青い玉」の話が度々出ていました。
平和が続いている今でこそ、伝説のように伝えられていますが、文献の中では青い玉は実在の宝物として語られていました。」
「その王の作りし国が危機に瀕したとき、青い竜が現れ、その王と国を守らん。」
「そうです。その青い竜が救いだとされています。
人々の口づてに広まった伝説では青い竜がどうやって出現したのか語られていませんが、文献には記されてあるのです。
竜の出現の際にはいつも『青い玉が光り輝きだし、青い竜が現れた』とはっきり記されているのです。
その少女の持つ青い玉、誰も見たことのない青い玉、それは青い竜を呼ぶための青い玉に違いないと思うのです。」
「それで、卿はディアナを誰かの手先か何かだとは疑わないというのか?」
フランツはふっと笑った。
「はい、青い竜はこの国とその王を守るもの。
この状況下で次期国王であるフランツ皇子のもとへ現れたのは、この混乱をまとめ導くため、力添えに来たのかと。
なぜそれが少女の形をしているのかはわからないところですし、昨夜からウェルスターとともに再度文献を調べなおしましたが、女や男が現れたと記している文献はありませんでした。」
「卿が伝説など信じるとは思わなかったな。」
「いえ、これが根も葉もある文献に記載されている話だからです。
ただの作り話ではありません。」
「だが、卿はその歴史をその目で見てきたのでないだろう?」
「はい、青い玉の出現があったのは一番近い時期で150年前のようですので。」
「私はディアナを少なくとも怪しい者だとは思っていない。
だからレデオン卿が疑わないでいてくれるのは、ディアナにとって針のむしろのような視線がひとつ減るという点では、いいことだと思う。
だが、それだけだ。私も青い玉を見て、最初はとっさに伝説の救いだとは言ったがそれはあの状況だったからだ。ブリミエルを捕らえることができて、私もディアナも安全が確保できれば、その時は彼女を家に帰してやりたいし、そう約束した。
私は不確かな伝説には頼らない。
ウェルスターがディアナの調査をしてくれたおかげで、国外のどこに帰せばいいかわかるかとも思ったが、どこに帰せばいいかまだわからないということがわかったよ。」
ウェルスターに視線を送る。
「ディアナは私を狙う刺客ではない。」
≪ウェルスターもディアナの近くで接してみればわかる≫と言いかけたが、
やめておいた。ライバルをわざわざ増やすことはないだろう。
「では、ディアナついての話はこれで終わっていいかな?
私は二人とシラーとの国境への遠征について話をしたい。」
「それも含め、フランツ皇子、ここからが本題です。
伝説を利用してシラーとの国境のいざこざも抑え、ブリミエルらの勢力も黙らせてしまいましょう。」
レデオン卿が口元をぐっとあげる。
ウェルスターも「私もそれには賛成です。」と頷いてみせた。
どうやら、彼らはただの伝説やらの話をしに来たのでないようだった。
「続きを聞こう。」
フランツは二人の話をじっくり聞くことにした。
伝説を利用する、とはどういうことなのか。
ディアナはどうなるのか、フランツを含めて作戦会議が行われた。