「うーーっ…」
さっきおさまったはずやのに、拓人が出て行った瞬間また涙が溢れてきた
なんで拓人のことなんかで泣いてんのっ…
結局その理由もわからないまま泣き止むまでだいぶ時間がかかった。
途中で先生が戻ってくることがなくて、泣いてるところを他の人に見られへんくてよかったって思った
あたしは保健室にある冷凍庫を開けて保冷剤を取りだし、持っていたハンカチにくるめて目に当てる
「冷たいっ」
保冷剤は冷たくて、頭の中をスッキリさせてくれた。
「そろそろ行こっかな…」
あたしは保冷剤を元の位置に戻して、保健室を出た。
教室に戻るとすぐにあたしに気づいた奈美が駆け寄ってきてくれた
「ちょっと!?
歩夢今までどこ行ってたん!?」
力強く奈美
に体を揺すぶられる
「あーえっとちょっと色々あって〜」
「もー!歩夢がおらんからめっちゃひまやった!
てかちょっと目腫れてる?
泣いた?」
「んー泣いてないよ〜」
「…そっか。」
多分奈美は泣いてたことに気づいてたけど、あえて知らんふりしてくれたんやと思う。
ありがと、奈美、大好き。
心の中でそっと呟いた。
「それより、5組優勝してんで!?
あたしたちのリレーのおかげやって!!」
奈美はあたしに抱きつく
「え!ほんま?」
今、あたしは5組が優勝したことを知った。
「ほんまほんま
あ、坂下君にあった??
お礼言えた??」
「あ、あー、えっと、まだー」
出来るだけ平然を装って言った
「…そっかー」
奈美はあたしの異変に気付いたと思う
「あ、そうや
あたし今日お父さん誕生日やった!
やから帰らないと!
ごめん!奈美!
ばいばーい!!」
「え!ちょっと!歩夢…」
教室から奈美の声が聞こえた気がしたけど、気づかんふりして廊下を走り抜けた。
もちろんお父さんの誕生日なんて嘘。
今の状態のあたしやったらきっと奈美に迷惑かけっぱなしになってしまうと思う。
「帰ろ」
あたしは靴を履き替えて、帰路を歩いた
1人で歩くのはいつものことやのに、今日は無性にむなしく感じたーー
そして、今日を境に、拓人があたしに話しかけることもなくなった。
距離を置いたのはあたし。
距離を縮めたのは拓人。
そして春馬のことは忘れていきたい。
体育祭が終わってから約2週間
今日は土曜日やから学校が休み。
あたしは部屋のベットに寝転がって考え事をしていた。
それは拓人のこと。
拓人があたしに一切話しかけてこうへんようになった。
原因はもちろん体育祭の日の保健室での出来事。
拓人は、授業中、後ろを振り返ることもなくなった。
なんなんよ。
あたし大丈夫って言うたのに。
普通に接してきたらいいのに。
前までは拓人が構ってくるのが当然と思ってたから、なんも感じひんかったけど、拓人が話しかけてこうへんくなって、拓人と話してた時は楽しい時間やったんやなって思い知らされた。
それは、多分大事な友達やからやんな…?
うん、絶対そうや!
あたしはそう思い、目を閉じて、いつのまにか眠りについていた
ーー
「ゅ…ぁゅ…歩夢〜〜!!」
「ん…?」
目を覚ませば、あたしのことを叩き起こしているお母さんがいた
「あれお母さん今日仕事休み?」
「うん!そうそう!
それでお母さん今から歩夢たちのご飯つくらなあかんから、これ美由希(miyuki)ちゃんに届けてもらっていい?」
美由希ちゃんこと美由希さんは拓人のお母さん
そして、お母さんに差し出されたのは、りんごが何個か入った袋やった。
「お母さん、出張で青森行ってたやろ??
それで美由希さんの分もお土産買ってきたから届けて欲しいねん。」
…正直今拓人の家に届けるのは辛い。
けど、美由希さん家おるよな…?
お母さんも今からご飯作るって言ってるし…
「うん。わかった」
「ありがとう〜!!」
あたしはお母さんからりんごの入った袋を受け取った
適当に着替えて外に出る。
1日中ダラダラしてたから気づかんかったけど、もう6時やねんな…
空も曇ってるし、なんか気持ちもどんよりした。
そして秋になってきたこともあって、外はちょっと暗くなっていた
拓人の家歩いて行っても結構近いから歩いて行こかな…
あたしは拓人の家まで歩いて行くことに決めた
10分後、拓人の家の前に着いた。
そして、家の前に着いてから5分が経過した。
あたしがなにしてるんかって?
…緊張してインターホンが押せないんです。
うう。これは困った
何回も押そうとはしてるけど、あとちょっとってところで手を引っ込めてしまう。
けど、美由希さん多分おるはずやし…
よし、押そ!
ピンポーーン
インターホンの音が鳴り響いた
「はい」
インターホンに出たのは美由希さんやった
「歩夢ちゃん?
今下行くわね〜」
ふう……
拓人じゃなくて安心した…
あたしはそっと胸をなでおろしていると、中から美由希さんがでてきた
「こんばんわ〜
これお母さんが美由希さんに届けて〜って!」
あたしは美由希さんにりんごの入った袋を差し出した。
「あらありがとう〜」
拓人のお母さんは嬉しかったのか、とても笑顔になった
「じゃああたしは帰ります」
「あ、ちょっとまって、歩夢ちゃん
最近拓人なんかあったか知ってる?」
帰ろうとすると、美由希さんに止められて、拓人のことを聞かれた
「…えっと、なんでですか?」
「なんか様子が変でね〜
最近ずっとボーっとしてるのよ〜」
美由希さんは拓人のことがとても心配なのか、声のトーンを落として話した
ちなみに美由希さんはシングルマザー。
拓人が中学の時に旦那さんが亡くなった。
だから人一倍息子を大事にしたいんやと思う
「…そうなんですか…
ごめんなさい。あたしわかりません」
できるだけ平然を装って返事した
「そっか〜
いきなりこんなこと聞いてごめんね。
りんごありがとうってお母さんに伝えといて〜」
「はーい!さようならー」
あたしは今度こそ坂下家をあとにした
けど運の悪いことに
ザザザーーー
「え、雨?」
50メートル程歩いたところでいきなり雨が降ってきた。
「もー最悪。」
あたしは何も持ってなかったから、ひとまず近くにあったコンビニの前で雨宿りすることにした
「お金も持ってないし、傘買われへんやん…」
もー最悪。
「「あっ」」
2人の声が重なった。
なんと、あたしの目の前には拓人が居た
多分拓人は家に帰る途中やと思う。
拓人も傘を忘れていたのか、あたしの横に並んで雨宿りした。