「帰るぞ」
「あ、うん…」
昨日の今日やけど、拓人の様子は特に変わらん。
「なあ、拓人
昨日のこと覚えてる…?」
「あー、お前が俺にあ〜んしてくれたこと?」
拓人のニヤニヤ顏にいらいらする
「それじゃなくて!!
そのあとのこと…」
あたしは恥ずかしくて、最後の方をちっちゃい声で言った
こんなん自分で聞くの恥ずかしいんやけど…
「え、俺なんか言った?」
「え!?」
まさか覚えてない…!?
ありえへん…期待したあたしが馬鹿やった。
「俺何したん?教えて!」
「絶対言わん!」
「言えよ!」
そんなに聞きたいこと…?
「拓人絶対聞かんかったらよかったって言わん…?」
それが心配。
「言わん!」
よし、言ったからな、拓人
「拓人が告白してきた」
「は!?冗談やめろよ!!」
いやいや冗談ちゃうし!!
「ほんまやもん…」
「あ…思い出した。」
拓人は今さら昨日のことを思い出したらしい
昨日結構熱あったから、まあ忘れてても仕方ないか。
「俺そういえば結構恥ずいこと言ったよな!?」
拓人の焦りようがすごい。
「うんまあね」
「うわー!!!最悪や」
拓人は頭を抱えている
最悪ってなんなん…
「けど、昨日のことを本気やから。」
拓人の目が、真剣そのもの。
「うん。わかってる…よ」
昨日の拓人を見てよく分かった
だいぶ自惚れてるけど、拓人はあたしのこと大切にしてくれてるって思った
「好きやで」
拓人はあたしの頭をポンポンと撫でる
「ありがと…」
本物の恋人やったらあたしもって返すと思う、けど、あたしにはそれができひん…
フラフラしてる自分が大っ嫌い
「いつか、俺のことめっちゃ好きって言わせてやるから」
拓人はあたしの顔を覗き込んで、微笑んでくれた
いつものいたずらっ子のようにニヤニヤした顔じゃなくて、優しい笑顔
ドキドキドキドキ
あたしの心臓は家に着くまで鳴り止まんかった
俺は中学の時、半年間付き合ってた彼女がおった。
名前は歩夢。
明るくて、ちょっと強がりで、美人な女。
気づけば歩夢に惚れてて、告ったらまさかのオッケー
俺と歩夢はすぐに学校の公認カップルとなった
学校でもよく話してたし、デートもいっぱいしてた
毎日が楽しくって、これ以上の幸せはないと思った
けど、ちょっとしてからあることに気がついた。
俺が歩夢を振った理由はそれが原因なんや…
今話しても、ただの言い訳に聞こえるかもしらん。
けど、頼むから俺の話を聞いてくれ
俺は歩夢に真実を伝える決意をして、歩夢の通う学校へと向かった
ーーーーー
学校の正門にもたれて、携帯をいじりながら歩夢を待つ。
30分ぐらい待っていると、歩夢が正門に向かってくるのが見えた
「なあ、あゅ……」
俺は歩夢に声をかけてへ向かおうとしたが、途中でやめた。
歩夢の隣には、見慣れた男…拓人がおった。
歩夢と拓人は楽しそうに話をしている。
まるで、俺が入る隙なんてないって言うてるみたい。
…けど、今日声かけへんかったら、一生声かけられへん気する。
「歩夢!!」
俺は意を決して歩夢を呼んだ
「え…は、るま…?」
歩夢は俺を見ると、いきなり泣き出しそうな顔をした
…そんな切なそうな顔せんといて。
俺まで泣きそうになる
「歩夢。話したいことある…
拓人、今日1日だけ歩夢借りていいか…?」
歩夢は俺に返事をしようとする気配がないので、拓人に尋ねた
拓人は沈黙。
俺たちの間に重い空気が流れる
「…歩夢のこと、泣かせへんって誓ってくれるか…?」
沈黙を破ったのは拓人。
ごめん、拓人、それは
「約束できひん。」
別れた理由を告げたら、きっと歩夢は堪えようとしても、泣く気がする。
「は?」
拓人は眉間に皺を寄せる
拓人は多分…歩夢のことが好きや。
だから、泣かせるかもしらんって遠回しに言った俺にイラついてるんやと思う。
「けど、今日話して、歩夢がもう俺に会いたくないって言ったら、俺は一生歩夢に会わんって誓う」
拓人は怒ってるようにみえたけど
「わかった」
それだけ言って、去っていった
歩夢は俺に目を合わせんと、遠くの方を見てる。
多分、俺と目を合わすことが怖いんやと思う。
けど、こんな風にさせたのは俺。
「ごめんな。
駅前のカフェ行ける?」
「うん…」
歩夢の声はかすかに震えていた。
さっき、拓人と話してた声とは大違い
ごめんな、歩夢。
ーーーー
カフェに入って、俺はアイスコーヒー。
歩夢はホットココアを頼んだ。
店員さんはすぐに持ってきてくれて、俺はアイスコーヒーを一口飲んだ
「あのさ、俺が歩夢のこと振った理由
聞いてくれる…?」
歩夢は予想外の俺の発言に驚いたのか、ずっと下に向けていた視線をあげて、俺と目を合わせた
…それは一瞬のことやけど。
歩夢はまたすぐに下を向いてうんとだけ答えてくれた
俺は歩夢と付き合ってた時、ほんまに楽しかった
歩夢は自慢の彼女で、歩夢とおる時間が何よりも楽しかった
喧嘩はよくしたけど、歩夢が俺のこと頼ってくれたりしたときは本気で嬉しかった
けど、ある日気づいた
「ちょ、欠席人数書くとこ間違ってる!」
「いや、これは、わ、わざとやで!?」
「ほんま歩夢あほ!!」
そう言って放課後の教室で笑いあっている男女
…拓人と歩夢。
多分、俺と歩夢が付き合ってるって知らん人が見たら絶対カップルに見える
この時は歩夢が日直の日で先に帰っといてって言われたから、帰ろうと思ったけど、教科書を教室に忘れて、取りに来たらこの状態。
もちろん入っていけるわけもなく、俺はこの日帰った
家に帰ってからも考えることは歩夢のことばっかり
拓人は歩夢のことが好きやと思う。
それは前から薄々気づいてたけど、歩夢も拓人には心を許してる感じで。
もし歩夢が俺じゃなくて拓人を好きになったらどうしようとか考えたら、めっちゃ妬けてきて。
けど、今日は日直やったし、ちょっと話すのは仕方ないかなって思った。
だからこの日はあんまり気にしてなかった。
ーーーー
それからも俺と歩夢の関係は続いてた
たまに、歩夢と拓人が2人で話してる時はあるけど、歩夢が拓人に恋愛感情を抱いてるようには見えへんかったから、安心しきってた。
そして付き合って4ヶ月が経とうとしていた日のこと。