「悪い!遅れた!」

待ち合わせ場所についた時、
やはり秋紀は先に待っていた。

「いーや、今来たとこ。」
ニコリと目尻を下げて笑う。
人当たりのいい顔ってこういう顔なんだろうか。

「お詫びにいいもん持ってきた。」

「えーなになに?」

いいもんとは、さっきのDVDのことだ。
たまたま返却されてきたものでお詫び、
なんて言っていいかわからないけど。
無いよりは良いだろう、と思うことにした。


「あとでな。それより先に飯行こーぜ!
俺昼から何も食ってないから腹減ったー!」

「なんだよー。気になるなぁ!
じゃー、まぁとりあえず軽く何か食べようか。
飲むのはそのあと、ってことで。」


そう言うと揃って繁華街を歩き出した。
どこに入るか、何を食べるか。
全然決めて無い時は、
インスピレーションに従うことにしている。
当たりの時もあるし、もちろん外れる時もある。
でも外れた時も、外れた時でそれもまた楽しい。
ワーワー言いながら食べる飯は、
例えマズくても外れたなぁ、なんて笑えて
それなりに食べれるものだ。


そして今日俺達が選んだ店は
こじんまりとしているが、小奇麗で
雰囲気も良く、当たりだった。


「ここは当たりだな。」

こっそりとつぶやいて笑い合う。
本日のオススメと、お互いビール、
あとは適当に注文して
やっと落ち着いた。


「いい感じの店だな、なんか照明とかもオシャレだし。」
失礼のない程度にくるりと店内を見回すと、
やはりカップルが多いようだ。
あとは、俺達みたいに男同士、女同士もいる。

これで合コンや飲み会をしている人らがいれば
雰囲気も壊れてしまうかもしれない。
それほど広くない店内に、落ち着いた空気が流れて
なんとなく大人の店、という感じがする。

「春希、あんまりキョロキョロすんなよー」

笑いながら言う秋紀は、
場慣れしているとでも言う訳でもないのに
なんとなく落ち着いている。
性格の問題だろうけど、正直羨ましい。
こういう時にいつも
俺の方が子供だなぁと思う。

そうこうしているうちに料理が運ばれてきて、
そっちに集中することにする。
まず初めにカンパイをして、
それから食べ始める。いつもそうだ。

「じゃーカンパイ!」

カチンとグラスを合わせて、同時に飲み始める。
冷たいビールが喉の中を滑り落ちていく感覚が
いつもたまんねーなーと思う。
一気に半分近く飲んで、料理に手を着けた。

本日のオススメは、挽肉をパイ生地に包んで
オーブンで焼いたミートパイらしい。
サクサクのパイ生地に中に包まれた挽肉がジューシーで
なんともいえない美味しさだった。

「うわ!これウマイ!秋紀も食えよ!」

「おー!ウマそー!」


そうしてパクパクと食が進み、
注文していた料理はあっという間に空になった。



「ふぅー、やっと落ち着いた。」

腹ぺこだった俺は、特にバクバクと食べまくった。
食べることに夢中になると無言になるのはしょっちゅうだ。

「どーする?追加するか、他の店行くか」
秋紀に問いに、どーするかなーと答えた。
正直、この店の料理も雰囲気も好きだけど
ガヤガヤとした居酒屋の方が、気兼ねなく飲める。

周りに聞こえないように小声でそう言うと、
秋紀の考えも一緒だった。
じゃあ次の店行くか、と俺達は会計に向った。


支払いを済ますと、愛想の良い店主の
ありがとうございましたー、の声が響く。
ごちそうさまでしたーと返し店を出た。


また行きたくなる店というのは
ただ料理が美味しい、とかだけでは無いな。
改めて言うことでもないから秋紀には言わなかった。