家から駅までの道のりは、いい散歩道でもある。
5月の爽やかな風が建物の隙間から吹き抜けていく。
さやさわと流れる風を受けて、
なんとも言えない気持ちよさに気分が弾んだ。

(これで今日の講義が無ければなー、)
どこか遊びに行くのに。

しかし大学の費用を親に負担してもらっている以上、
大学には真面目に行きたかった。
大学に進学するとき、そう決めた。
まぁ当たり前の話ではあるが。



家から駅まで歩いて15分、
電車で3つ目の街に俺の通う大学がある。


ゴミゴミとした人の流れに沿ってホームに向かう時、
前の人混みに秋紀がいるのに気付いた。


スルスルと人並みを上手く躱して歩く後ろ姿は、
ほとんど間違いようがない。
人より頭1つ分飛び抜けていて、
すぐに秋紀だと分かるから
背が高いと便利だな、と思った。


「おーい、秋紀!」


「よぉー、春希ー」


この人混みの中、器用にくるりと振り返り
間延びした返事を返すコイツは、
俺の昔からの親友、木下 秋紀。

幼稚園、小学校、中学、高校、
そして大学。ずーっと一緒だった。


お互い飽きるほど顔を見てきているのに、
俺達は一緒にいて、会話が尽きることが無かった。


もちろん、つねにしゃべり続けている訳ではなく
お互い何かに熱中している時、ふとした時、
色々と無言の時もある。

ただ、その無言の状態でも何も気にせず
むしろ居心地良く過ごせる、そんな関係だ。



「春希も一限からなんだなー。」


「あぁ。でも午前中で終わりだから全然楽だけど。
その後、バイト入ってるけどな。」



「まじかー、俺午後からも講義入ってるんだよなー。
バイトは休みだからマシかぁ。」

バイトが休みという言葉に、俺は食いついた。

「秋紀バイト休みなら、飲みに行こーぜ!
俺早番で七時上がりだからさ!」



「いいねぇー!じゃあ七時くらいにそっち行くわ。」


アルコールを呑んでも
何も言われない年齢になった俺達は、
居酒屋で堂々とお酒を注文出来ることを楽しんでいた。



まだまだ日本酒やウイスキーなんかは慣れないけど、
ビールやチューハイは大好きだ。
だから、俺達はよく飲みに出かける。


夜からの予定が入り、
今日も一日頑張ろう!という気になれた。
俺は意外と単純なのかもしれない。
この歳になって気付くのも変だけど。