辻は彼女の後ろに立っていたので、一枚は絵札であることが分かった。
彼女は、もう一枚をスローモションのように半分めくったところでカードを横向きに変えた。
辻は、バクンバクンする波打つ胸に向かって思わず息を飲む。
まだ、カードの数は読めない。
シンプルなデザインの小さいダイヤが輝く指で、カードの中を猫背になって障子(しょうじ)の隙間(すきま)を覗き込むように絵柄の位置を読んでいる。
一段と早く大きくなる辻の鼓動。
ワァァ!という歓喜と落胆の混じるざわめきが立つと、結局、それは、7だった。
客の視線を泳ぎ見る鉄仮面のディーラーは、「バンカー7、プレイヤーバカラ。プレイヤーズカード」と言って、プレイヤー側に配られた三枚目のカードを、先ほどのおじさんに渡す。
バンカーは、スタンドでもう三枚目のカードを引くことができない。
この時点で6以下か10以上のカードで辻の勝ち、7は引き分け、8か9の場合だけ辻の負けである組み合わせは、圧倒的に辻の有利。
カードをめくるおじさんは、慎重にカードを縦に横にしながら絵柄の配置を読む。
すると、いきなり鬼の首でも取ったかのようにカウ!と咆哮(ほうこう)しドン!とカードをその場にたたきつけると、周りの客がわっと歓声を上げた。
結果、プレイヤー9、バンカー7でプレイヤーの勝ち。
今回は、勝てると信じていた辻の落胆は、チップの直径よりずっと大きかった。